辺口芳典 Yoshinori Henguchi

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元に戻らないことについて

水中でもがいてるみたいに、
岩肌から岩肌の魂がすり抜けて、
夏が脈打ち始める。
食べかけのロブスターの写真を
狙撃する計画の果てに、
桃色の果物が熟しきっていた。
桃色の果物は桃の匂いを受け継いでいる。
桃の匂いが波打つのを感じながら、
狙撃手は桃色の果物を狙撃した。
弾丸、それは岩肌の魂だった。
岩肌の魂は日差しを反射させて銀色に光った。
岩肌の魂は桃色の大脳を貫通して、
桃色の後頭部から飛び出した。
桃色の果物は、桃色のひざから崩れ落ちて、
桃色の手のひらで、桃色の路上をかきむしりながら、
ただの桃色になった。
ただの桃色が湿気を帯びた風のように、
むせ返るような夏の到来を告げていた。

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