大変楽しそうに笑ってくれて ありがとう。
大変おいしそうに食べてくれて ありがとう。
食べる。ただ それだけの力強さ。
生きている。ただ それだけの恐ろしさ。
そんな光景に心を奪われる。それは いつも不意打ちだ。
運ぶ。ただ それだけの優しさ。
助け合っている。ただ それだけの楽しさと おぞましさ。
それは いつも不意打ちだ。
優しさの衝撃に打ち抜かれて立ち止まりそうになるけど、ただ 歩こう。
楽しさと おぞましさの爆発に吹き飛ばされて何もかも奪われていくけど、
ただ 笑おう。
手探りで、感じたままを、苦しみを、その苦しみさえも美しく快いことを、
ただ 笑おう。
きれいさっぱりと この世から消えて無くなりたい気持ちを、
そもそも生まれなかった自分を夢見る屈辱を、ただ 笑おう。
「負けている あなたを丸ごと嫌いです」というストレートな言葉を、ただ 笑おう。
あっけなく到達してしまったハッピーを、ただ 笑おう。
胸を張って、よく笑い、エンドレスにハッピーを続けること。
土を食べて育つ。夢を食って成長する。
晴れ渡った あなたの心や、今ここで花開く あなたの息づかいと踊るのだ。
わたしたちは踊っている。
子供じみた、底知れない、ひたむきな、どこにでもあるようなダンスだ。
ダンス。ダンス。ダンス。一生懸命に仲良くやっていきましょう。
ダンス。ダンス。ダンス。ダンス。ただ 笑おう。
あなたは わたしの瞳の中のセクシーなリンゴ。わたしは あなたの心の中のビターチョコレート。
今日も世界が移動している。
今日も宇宙が移動している。
お母さんが海辺にいて、
水しぶきと打ちとけた感じで、柔軟体操をしている。
お父さんは赤ちゃんを抱いて、涙を流していた。
お父さんの涙は重力のことを思い出させる。
赤ちゃんが生まれて初めて意識した重力だった。
赤ちゃんは満面の笑みで、お父さんの涙を見ていた。
勝ち誇るかのような力強さで、おばあちゃんは波乗りをしていた。
おじいちゃんは大好きな「恋の歌」を聴いていた。
「お父さん お母さん、お風呂に入れてくれて ありがとう。
これは僕たちの恋の歌」
「お父さん お母さん、わたしたちの お尻についた うんこをふいてくれて
ありがとう。これは わたしたちの恋の歌」
「お父さん お母さん、話しかけてくれて ありがとう。抱きしめてくれて
ありがとう。これは僕たちの恋の歌」
「お父さん お母さん、見守ってくれて ありがとう。これは わたしたちの恋の歌」
おじいちゃんは赤ちゃんを抱いて、
波乗りをしている おばあちゃんを見つめていた。
おじいちゃんの瞳の中で、
おばあちゃんは大きなサーフボードに乗って曲線を描いている。
七色の水しぶきを上げて、おじいちゃんの瞳の中で、大きな曲線を描いている。
すべての笑い声には破壊力があって、
すべての破壊力には
気持ちのいい破壊力と気持ち悪い破壊力があって、
気持ちのいい破壊力に、わたしは打ちのめされる。
あなたと露天風呂で月を見ていて、
わたしは気持ちいい破壊力のことを思い出してしまう。
その時、わたしは ときめいて、ときめきのなかで ほろびているのだ。
気持ちのいい破壊力には うめき声が隠れていて、
すさまじい うめき声に、わたしは打ちのめされる。
友だちのようにやってくる うめき声だ。
必死で分かり合おうとしてくる うめき声だ。地響きに感動する うめき声だ。
すりきれた うめき声だ。胸を張る うめき声だ。
発狂寸前のクリームパンと冷えたビールと防弾ジャケットを突破して、
露天風呂が二つに裂けるほど わたしは叫ぶのだ。
根拠は全くないのだけど、おたけびの後の静寂は素晴らしい。
飢え死にした人や蒸し暑い部屋や きんぴらごぼうや清涼飲料水を突破して、
わたしの唾液が、あなたの唾液を追い回している。
あなたは わたしの唾液を指でつまんでゴミ箱に捨てるのだ。
わたしの唾液はゴミ箱のなかで 笑い声を上げている。
のろのろとゴミ箱を よじ上る笑い声、それが正真正銘の人間の姿なのだ。
わたしには心があった。それが あなたを少々狂わせるのだった。
あなたには心があった。それが わたしを少々狂わせるのだった。
だけど、ここが行き止まりだとは思わない。
あなたが作ってくれた お昼ごはんが おいしいから。
あなたと歩いた夜の道が たのしかったから。
わたしたちは いびきをかいて、
夢の中で、最高に履き心地のいい靴を履いて、月の上で ひと暴れした。
わたしは あたらしい心を発明した。それが あなたを少々狂わせるのだった。
だけど、わたしは発明することをやめない。
わたしたちは月の上を全力疾走して、火星めがけて おおきくジャンプする。
わたしたちは火星を通り越して、水星も飛び越して、木星に着地した。
木星には一人の画家がいて、少しおどおどした様子で
「よく来たね」と言いながら握手をしてきた。
見渡せる限りの一面に わたしたちの心が描かれていた。
いくつもの惑星に直接描かれた わたしたちの心に圧倒されたのを覚えている。
わたしの心は あなたの心を受け止めるふりして、本当は無関心なんだ。
すごく無防備に、息を殺して、汗かいて、ものすごくがっかりしたりして、
わたしたちの心が地面に散らばっていく。
それでも、わたしの心は あなたの心と お昼ごはんを食べたりしたい。
一緒に美しさや楽しさを過ごしたい。みじめさや いじらしさを過ごしたい。
それでも、わたしの心は あなたの心を笑わせたいんだ。
わたしの心よ、あなたの心を ゆらしてくれ。 そう願うんだ。
どこにも行き場所がないこと。
いつも びくびくしているような感じだよ。
「みじめで、恥ずかしくないですか?」という言葉が
血管中を駆け巡っていた。
「みんな死んだ。だから、お前も死ね」という言葉が
鼓膜の手前で破裂した。
だから、私の耳は聞こえなくなった。
死ぬことを怖がっていること。
殺すことを怖がっていること。
わからない。
ほっとするくらい、何も わからない。
「みじめで、恥ずかしくないですか?」という言葉が
血管中の あちこちで破裂した。
体中が ちくちくしているような感じだよ。
だから、私は口の利けない恋人に
ちくちくしているような箇所を舐めてもらっていた。
何が悲しいのだか わからないけど たくさん涙が出た。
「たくさん涙が出たはずなのに、世界は水びたしにならない」という言葉が
血管中を駆け巡っていた。
「誰も この永遠を壊すことはできない」という言葉が
私の頭の中で破裂した。
だから、私は耳の穴から本物のゲロを吐いた。 祝杯が よく似合うゲロだ。
太陽と海の間で男と女は お互いの傷を舐め合っていた。
男と女は馬鹿だから、その瞬間が いつまでも続くと思ってた。
透明な海を突き破ろうとして、男と女は青空を突き破った。
太陽を突き破ろうとして、男と女は お互いの傷を突き破っていた。
男と女は痛みを感じている。
男と女は ゆっくりと柔らかく死んでいくことを実感した。
男と女は満ち足りていた。
世界は精密で、男と女は服を着て働くマシーンだった。
男と女は服を脱いで働くマシーンにもなれた。
きっと男と女は この世界を憎んでいるのだろう。
のこのこと、男と女は この世界を愛しているのだろう。
男と女は すべてを与えられて、そして一つずつ盗まれていくのだ。
それでも、男と女の全財産は0にならなかった。
男と女は野原や道端で眠るようになった。
「触れるのは体だけにして、心には触れないで」と女は男に言った。
それでも、男は何度でも女の心に触れようとするのだった。
「お前のライフルで 俺のこの頭を吹き飛ばしてほしい」と男は女に言った。
「でも、もっと恐ろしい瞬間に、私の暴力はとっておきたいの」と
女は男に言った。
旅をする。
流れ星のように。飛行機雲のように。
一歩踏み出す。確実に前を見て。
ただただ致命的な一歩を楽しむ。
私は、たくさんの声を聴いた。
私は、たくさんの夜空を見た。
私は、私たちが少しずつ死んでいく静かな夜を知っている。
私は、ぎゅっと握った両手の拳を挙げて、
永久に後戻りできない弾丸のようなこの世界を笑ったりもする。
私は、たくさんの声を聴いた。
私は、たくさんの夜空を見た。
私は、路上に捨てられていた喪服に雷が落ちるところを見た。
喪服が鳴いていた。一頭の猛獣のような鳴き声で鳴いていた。
ぶ厚く積もった汚物の塊が地球だよ。
性別、年齢、人種、出身地、貧富などが汚物だよ。
恐怖に ゆがんだ顔が人間だよ。
恐怖であり、痛みであり、
ねたみであり、オロカシさが人間だよ。
恥さらしが人間だよ。
爆弾のハレツで手足をもぎ取られたり、
ハモノで腹を刺されたりして うめき声を上げる人間だよ。
人間焼かれりゃ灰にもなるよ。
幸せを望む煙みたいな気持ちが人間だよ。
たわごとにすぎない人間だよ。
ウスノロのウイルスみたいな人間だよ。
「無駄な繰り返しが人間だよ」と声に出す人間がいたよ。
オロカシさを通り越してからオモシロくなってきた人間だよ。
自分の信じた汚物やオロカシさの隣に立っていることを、
最高に楽しんでいる人間だよ。
「くそったれ」と声に出す人間だよ。
私は、今を生きている肉体。
私は、ただのナマケモノの思考能力。
私は、数えられ、計られ、削られる毎日を過ごしている。
私は、右手に五本の指を持っていて、
右足に五本の指を持っている。
右足の親指は、宇宙に祝福されたような形をしている。
私は、右足の親指に、
「宇宙に祝福されたような形」という名前をつけた。
「完璧な美の象徴」である右手の中指が雨に濡れて光っている。
雨に打たれたくらいが気持ちいい夏の日。
私の赤ん坊は、ヘソの緒を噛みちぎって生まれてきた。
私は、そんな赤ん坊に、
「ヘソの緒を噛みちぎって生まれてきた」という名前をつけた。
夏が、迷いもなく今を発狂している。
美しいという言葉では足りない、凄まじくも素朴な光景の中で、
「発狂していないことを許してください」というのが私の名前だった。
僕たちは出会って、そして別れる。
理解できるとか理解できないとか関係なく。
ねじ伏せられるように。
僕たちは出会って、そして別れる。
はかないよ。でも、このままでも生きていく。
一生懸命に、おろかに踊ろう。
一生懸命に、仲よしでいよう。
一生懸命に、ハンモックで昼寝しよう。
一生懸命に、昆虫に寄り添って生きよう。
一生懸命に、ありがとうを伝える土下座をしよう。
たった一行、
「生きるって めんどうくさい」と
書きなぐってやろう。
ジャンル、ジェンダー、国境、文化、社会、空想、現状、
ぜんぶ からっぽ。
ねじ伏せられるように。
僕たちは出会って、そして別れる。
このままで いいわけない。でも、このままでも生きていく。
美しい海に駆り立てられる。太陽に焼かれて消え去りたいとか考える。
一点の曇りもない青空に駆り立てられる。でも、ぶざまに生きていく。
ケンカしたりジャンプしたりして、この どうにもならなさを味わっている。
たった一行、
「まるっきり けだもの」って
書きなぐってやろう。
僕たちは出会って、そして、夕方になると涼しい風を感じた。
今日は黒い髪、赤い服。
それは風景ですか?言葉ですか?
どこで習ったのか?わたしは犬の習性を知っていて、
犬の気持ちになって何かを待っている。
何も あふれないようにしたいと思いながら
何もかも あふれてしまうのが理想。
わたしは何も考えることなく、単純に絵を見たい。
わたしは何も考えることなく、単純に本を読みたい。
すみずみまで。
わたしは どんどん好きになるんです。
それは風景ですか?それは言葉ですか?
今日は2014年の8月4日の真夏、
わたしはヘルベチカとアクチデンツグロテスクって言葉を
友だちに教えてもらいました。
つぼみを こじ開けて外に出ていくという風景を教えてもらいました。
おばあちゃんは嘘をつかない人だった。
嘘をつけない病気だと言ってもいい。
「新しさとペテンと果物と愛妻家とカーネーションと
カプチーノとレインボーとマッシュルームと美しさと退屈は
まとめてゴミ箱に捨ててしまったよ」と おばあちゃんは言った。
「わたしの成長を待ってくださいね」と おばあちゃんは言った。
「おばあちゃんの成長を いつまでも待つよ」と わたしは言った。
「何を知った風なことを言ってるんだよ」
と おばあちゃんは わたしに言った。
「お前に言ったんじゃないよ」と おばあちゃんは わたしに言った。
「そんな お前を軽蔑します」と おばあちゃんは わたしに言った。
「お前には無敵になってほしいね」と おばあちゃんは わたしに言った。
「どんなに がっかりする出来事があっても
お前は目の前の波に乗って ただリラックスしてサーフィンすればいい」
と おばあちゃんは わたしに言った。
「一度、比喩と笑顔については じっくりと考えないといけないね」
と おばあちゃんは わたしに そう言い残して 青い花瓶の中に消えた。
後には ささやかなダンスミュージックと潮騒と潮の匂い。
私は銀行でお金を下ろしていた。
君に会いたいと思った。強く念じたら君に会えた。
君の鍛え抜かれた見事な筋肉を
たくさんの人が たくさんの絵の具で水色に塗っていた。
君は裸で直立しているだけ。
銀行強盗が手ぎわよく迅速に動いている。
銀行強盗が水色の札束と水色の君を奪って行く。
「お前たちは 俺が耕した田んぼに似てる」
たくさんの人に向かって銀行強盗は吐き捨てるように そう言って出て行く。
「お前たちは 俺が耕した田んぼに似てる」という その言葉の連なりが
たくさんの人の足元をニシキヘビのような姿をして すり抜けて行く。
私はニシキヘビのような姿をした その言葉の連なりを絶対に許せないと思った。
私はニシキヘビのような姿をした その言葉の連なりに飛びついて、
その言葉の連なりの頭らしい部分を思い切り殴りつけた。
その言葉の連なりの頭らしい部分が ぐしゃっと醜い音を立てて潰れた。
潰れたところから、グレープフルーツとダージリンティーの匂いがした。
日々を暮らす。
泥まみれなのか血まみれなのか分からない姿で。
野性の動物と手をつないで座っている。私の心臓は丈夫になった。
少しずつ丈夫になった。
衝突と和解、偽善や物音が私の心臓を丈夫にする。
ひきつった顔で、這いつくばって、ごろんと寝ころんで、
ほっとした顔になって、やたらと気をつかって、私の心臓は丈夫になった。
野性の動物は空を見た。
「わたしは あれと戦わなければならない」 野生の動物は そう言った。
複数のストーリー、挑戦、幼稚さ、無惨な残飯、劣化、すれ違い、放射。
野性の動物の心臓と わたしの心臓以外は すべてが吹き飛んだ。
すごく腹が立っていたし、すごく恥ずかしかったけど、
野性の動物の心臓と わたしの心臓は 図太くて、身勝手に滑らかなキスをした。
気に入らないことだらけの
狭い空間が人間の正体です。
計画性がなく、
不満をぶちまけるだけの人間です。
真夏の夕方には涼しい風が吹きました。
涼しい風にゆれる花がありました。
何回も挫折して、甘く切なく、
虫のように生きるのが人間です。
醜くて、傷ついた心が人間の正体です。
汗の匂いが人間の正体です。
人間の長男は月にウサギがいると信じています。
人間の次男は水星にウナギがいると信じています。
人間の妻は人間の夫を見つめすぎて目が悪くなりました。
「自分の中に、気持ちいい秩序を持つこと」
人間の妻はスケジュール帳に そう書き込んだ。
「ぬかるんだ道を、裸足で歩いたら気持ちいい」
人間の長女は人間の描かれている絵はがきに そう書いた。
遊び続ける子どもの声は
私たちに生命を告げている。
遊び続ける子どもは道というものを無視する。土足で。
誰もその土足を他人事にはできない。これはエネルギー循環。
私たちは、一日一日、綱渡りで、一日一日、目に見えて破壊される体です。
生まれて出てきた時点で間違いは始まっていて、私たちは、
そんなところに、勢いや色気や余裕を感じたりする頭脳です。
誤解、勘違い、バグ、欠損、やみくも、妄想、過程、一編の旅、悶え、
こじつけ、愛、自由、希望、自分勝手、偏見、インチキ、寄る辺なさ。人と人は出会う。
「この夜を楽しもう」「あなたを愛している」
「あなたの命の鼓動は たくさんの人を踊らせる」「みんなで踊ろう」
子ども用の自転車のカゴの中に夏の夜が入って来て、ニンジンと愛し合っていました。
夏の夜とニンジンの鼓動は たくさんの人を踊らせます。
追伸。
夏の夜とニンジンは おでん屋でセックスをしました。
お互いの舌と舌を絡めて。
夏の夜は、
夏の夜の中指でニンジンの乳首をピンッピンッって弾きながら、腰を振り続けました。
ニンジンは、
私たちは どうしてこうも勤勉にならないといけないのかと思っています。
ニンジンは、もっと嘘が欲しかった。もっと滑稽な仕草が欲しかった。
セックスを終えると、夏の夜とニンジンは抱き合ったまま おでん屋を出て行きます。
「うどん屋に行ってキスをしよう」と夏の夜はニンジンの耳元で密やかに伸びやかに そう言った。
夏の夜とニンジンは うどん屋でキスをしませんでした。
夏の夜とニンジンは うどん屋で おでんを注文しました。
「どうやって生きているの?」と言う
男の声が聞こえた。
都市とは呼べないほどの小さな街で聞こえた。
大病や事故に巻き込まれることなく男は生きていた。
口ごもり、言い淀みながら、
追いつめられるように男は生きていた。
「ビニール袋が空を舞っている光景は、
あなたが生きていることよりも重要な出来事に見える」と言う
女の声が聞こえた。
取りこぼして、落ちこぼれて、
ほどほどに働いて女は生きていた。
ただでさえユウウツなのに、
その上、もっと空しい気持ちにしてくれという願望を持って、
男と女は生きていた。
未来が明るくないと知りながら、
男と女は曇りのない笑顔を見せることがあった。
どうでもいいことばかりが美しかった。
家族が死んだときには、男と女は思う存分、家族の骨を拾った。
男と女は、コーヒーを飲むだけでも贅沢な気分になれる店を知っていた。
窓の外を流れる風景と音楽がひとつになる快感を知っていた。
子どもは大人より多くの神経細胞を持つ。
「人間は安っぽい」子どもは そう言った。
数学、科学、歴史、運動から学べることは何もない。
実験と実践から学べることは何もない。
それが ありのままの子ども。
がっかりして、がっかりを引きずって生きていく。
それが ありのままの大人。
「あの人も あそこにいたんだ」
女は大事なものを見つけたみたいに そう言った。
自由な雰囲気。捨てたくても捨てようがない気持ち。
忌まわしいものを恐れないバランス感覚。
なんでもありの自分を自分で制限することが自由の基本。
「バイクこそが 彼女の人生だった」
男は自分の肉体を削り取るように差し出すように そう言った。
「散々 事故を起こして体中にボルトが入っているけど、
彼女は開かれた社交場のような屈託のない笑顔だった」男は そう言った。
「私たちは自分勝手で思いやりがなく、他人を見下すことで生き延びてきたよ」
子どもは そう言った。
「私たちは傷つけ合うことでしか自分の声を伝えられなかった」と大人は そう言った。
「私は あの人が好きだ」と女は言った。「私は あなたの笑顔が好きだ」と男は言った。
「人間は安っぽい」「だから どうした」「傷跡があるだけ」
「炎が私たちの傷跡を えぐり取るだけ」「今ここは、私たちの目指した場所」
「それだけ」
野原を見つめて、そして退屈で、
一日一日、積み立てた血が、建築物になる。
わたしの血が、あなたの血の敷居をまたぐ、ときめき。
ねじくれた感覚。
それでも、また会いたい。
美しくない湖が、静かで、
ときどき、空からは銃声がしたたり落ちてくる。
恐いから、どきどきする。
ゆっくりと窒息して、ゆっくりと死んでいく感じ。
小さなエピソードが、いっぱいあることがうれしい。
小さなエピソードが、いっぱいあることが息苦しい。
夢と現実を同時に突きつけられた。
単独であること、独自であること。
人が人に恋をするとき、本当の恋心は地球からこぼれ落ちる。
ノンストップ、ムーブメント、正確に言えば、べつに転落じゃないんだ。
わたしは何を求めたのかな?
そもそも、何かを求める能力って、存在するのかな?
惰性だけ。
惰性という能力しか存在していないんじゃないかって気がした。惰性だけ。
失うのは、いつでも失っていいものだけだった。それでもそれは寂しかった。
命は失敗以外の何ものでもないから、ただ這うように生活していた。
地面から、いろいろな匂いがした。地面には、いろいろな温かさがあった。
建築業者は
2000年前のコンパスで円を描いて
5万年前の鉛筆で 円の中に音符を書いた。
飼い犬のアビーが すするように音符を食べる。
がさつだけど
実に うまそうに食べている。
建築業者が
ゆっくりと食べるようにと アビーに指示を出している。
「音符は逃げないからな」
アビーの体の内側で音符が溶けていく。
「音符は死ぬまで音符なんだよ」
建築業者は
2000年前のコンパスで円を描いて
5万年前の鉛筆で 円の中に音符を書いた。
「私の書く音符には魂がある。
衝動的で気分屋で 時に意気消沈してしまう ありのままの魂だ」
アビーが 遠吠えすると 高層マンションが揺れていた。
アビーが 遠吠えすると 土星に花が咲いた。
二秒か三秒くらい
あざやかな満月が変形して、
野良犬みたいな顔になった。
おだやかな叫び声を上げて、
野良犬みたいな顔は
その口から泥を吐き出した。
野良犬みたいな顔が吐き出した泥は
私の生まれ育った土地に落ちた。
私たちは その泥を丸めて泥だんごを作った。
私たちは その泥だんごを放り投げて遊んだ。
私たちの投げた泥だんごは
地面に落ちることなく途中で止まるんだ。
空中の泥だんごは満月のように光っている。
雨が降っていた。
風が吹いていた。嵐だった。
輝かしい出来事として僕たちは ずぶ濡れだった。
世界は僕たちに用意された絵の具だった。
僕たちは絵の具で車を描いた。
僕たちは嵐に向かって車を走らせる。
水しぶきは水色だった。
車の中で僕たちは幸せな気持ちだった。
僕たちは幸せで健康だった。僕たちは たくさん笑い合った。
ありのままの自分として僕たちは笑った。
僕たちは
たくさんの笑顔と健康と想像力が最優先であることを見失わなかった。
「僕たちは切り開いていくしかないんだね」
僕たちは本当に わがままな うすのろどもだ。
わがままな うすのろどもは
殴られても踏みつけられても本当にやりたくないことは本当にやらないだろう。
「それで、出会いたい人と出会えたのだ」
「それで、出会いたい人と出会えたのだから最高だ」
水しぶきも嵐も水色になって、
水色のトンネルを くぐるみたいで僕たちは それが嬉しかった。
もう何かが止まらないんだ。
あなたは何を求めて ここへやって来るんだと思う?
きれいな色のカプセルを ぬるま湯に入れると
カプセルをぶち破って あなたのお父さんが出てくる。
あなたのお父さんは赤ちゃんだった。
あなたの鳥肌が あなたを置いてけぼりにして どこかへ飛んでいった。
あなたの脇から脇腹にかけてハート型の汗が流れ落ちる。
アヒルが ぬるま湯に飛び込んで来て あなたのお父さんにキスをする。
あなたのお父さんは少し大きくなった。
「アヒルにキスされると お父さんは一歳年を取るのさ」
そう言い残して、あなたのお母さんは猛スピードで靴を履いて家を出て行った。
アヒルも どこかへ行っちゃった。
あなたは多分、一日に五回くらいは心臓発作で死にそうになるんだ。
どうしようもなさが徹底的に繰り広げられる。
「少し恐いけど、気持ちいいなあ」
あなたは強がった性格で、いつも笑ってはいるが心で泣いている。
心が泣けば泣くほど、心臓発作が最高に美しい。
あなたは懸命に一歳のお父さんを育てて暮らしている。
あなたは懸命にお母さんの顔を思い浮かべた。
お母さんの鼻の穴が白く光っていた。単純明快だ。そもそも防御は不可能だった。
お母さんは穴だった。心ひかれる穴。よし、穴を通り抜けよう。あなたは想う。
狂気の目をして、自転車をこいで、穴を駆け抜ける。穴を抜け出したら また人間だ。
嘘偽りのない狂気だ。嘘偽りのない狂気が人間だ。
どれほど過酷な状況でも、人を思いやることができるという狂気だ。
あなたは嘘偽りのない狂気を求めて ここへやって来たんだよ。
おめでとう、今ここは新しいページ。
散りばめられている。
揺れ動いている。
むっちりとした 生々しい あなたは
人間ですか?
汗ばんだ あなたは動物ですか?
動物たちの骨が ぶつかり合って音が鳴る。
それは お寺で鳴らされる鐘の音に似ていた。
それは 海の匂いがする。
それは 夏の匂いがする。
空気は湿っていた。頭の中で血液が重みを増した。
何度も何度も愚かで、
何度も何度も恐竜みたいな楽しさを発明するよ。
映画みたいなロマンティックを発明するよ。
宇宙みたいなマザーファッカーを発明するよ。
むっちりとした 生々しい あなたは
戦争ですか?
汗ばんだ あなたは戦場ですか?
戦場にキスをしますか? 戦争に土下座をしますか?
地球上の誰よりも、僕は戦場にキスをする。
地球上の誰よりも、僕は戦争に土下座をする。
水に濡れた女が道路に横たわっていた。
裸の女が泡だらけで道路に横たわっていた。
ノートパソコンが強風に飛ばされていた。
尽きることなく、ノートパソコンが強風に飛ばされていた。
建築家と花屋さんが話し合っていた。
水に濡れることなく話し合っていた。
泡だらけで道路に横たわることなく、強風に飛ばされることなく、
建築家と花屋さんが話し合っていた。
建物の歴史や街の変化の話から始まり、
冒険心や審美眼について、空や海を思わせる青色について、
大地の裂け目について、人を引きつける彫刻の機能性について、
吸い込まれてしまいそうな黒い瞳について、
木でできたものとか、錆びたものとか、深海魚について、
建築家と花屋さんが話し合っていた。
建築家と花屋さんの足の下に波が打ち寄せる。
色気と清潔感を合わせ持った稲妻が走った。
世界中の窓ガラスが音を立てることなく割れた。
貝殻の中身が貝殻から抜け出して街を歩いた。
懐かしい足音を聴いて、建築家と花屋さんは涙を一粒ずつ落とした。
涙が地面に落ちると、ガラスの割れる音がした。
雨や、風や、水着や、生き物、
ミディアムテンポ、何をしてもよい場所、
呪文、老後のやりくり、イリュージョン、
うめき声たちが破片となって砂浜になり、
手をつないで夕日を眺めながら、恋人たちは夢を見るんだ。
短い髪の女性は、大事そうに卵をかかえて眠っている。
「人を見たら敵だと思いなさい」
短い髪の女性の寝言は、呆れるほどの生命力を感じさせる。
僕たちは、いつでも実戦だったんだ。
これは、心置きなく馬鹿馬鹿しい戦場です。
だから、恋人たちは手をつないで夢を見るんだ。
夕日に照らされたような夢を見るしかなかった。
夢を見ないものは、目もくらむほど勇敢な魂だと思う。
どこからどこまでが魂で、
どこからどこまでがゴミ箱なのかさえも分からない勇敢さだ。
勇敢なものは恐怖を見た。しみじみとした調子で、恐怖を見た。
恐怖の先にある優しさを見た。優しさの先にある執念を見た。
勇敢なものは執念を見た。しみじみとした調子で、執念を見た。
執念の先にある白々しさを見た。
目が回った。いじらしさを見た。ただひたすら美しさを見た。お腹が空いた。
お腹が空いた先に昼ご飯を見た。昼ご飯の先にある泥沼を見た。
泥沼の先にあるゴミ箱を見た。ゴミ箱の中から勇敢な魂を拾った。
勇敢な魂の先にいる犬のJohnを見に行こう。Johnの濡れた鼻先に蝶々が二羽、止まった。
たしかに、はるかに、手を、ひらひらさせて、
ものと、ものとが、こすれる音、ねぼけた顔、ねぐせ、
窓から見える風景、オウトツ、人々、レストラン、
ジャグチ、マツ毛、水滴、うなじ、汗、鉄、コンクリート、植物、
バックミラー、バックミラーの中の視線、
液体を飲み込む友だち、ビニール袋が空に舞い上がる。日常の音かっこいい。
センタクバサミはセンタクモノを待っている。
捨てられて、拾われて、会ったばかりなのにキスをする。
セカイの常識には何の根拠もない。人は死ねない。それは不快ですか?
力と力の関係。食うもの食われるもの。
モノを壊したかった。壊すモノは何でもよかった。
こんなふうに言葉にしているうちに、
どこもかしこもフィクションになってしまうから、伝達は破裂してる。
女と男は別れました。何よりも、別れ際に玄関先で見せた男の無表情が印象に残った。
男は醒めているのだ。
一緒に夕食を食べて、たまには一緒に飲んだりして、私たちは醒めているのだ。
取り残された女は、挫折を感じました。
「挫折って、すごく嫌な言葉だけど、とても新鮮だ」
女は身軽になったような気持ちにさえなった。
夜に眠って、朝起きることから、女の生活は始まりました。たしかに。明らかに。
びくびくしていた。
もっとポップに。
たっぷりと びくびくしてた。
打つ手はないほど
じつのところ、毎日がハッピーエンド。
僕たちは歩いていた。
もっともっと びくびくしていた。
心臓が汚くなった。
心と夢と夜と嘘を知った。
友人が路上でハサミを売っていた。
カラフルなハサミだった。
見たこともない形の風船が飛んでいた。
無力感と認識と胸騒ぎを知った。
まあ、ふざけていた。僕たちは一緒にいた。
雨の音に混じり合って。今日一日、汗をかく。
「引き離さないで」と祈るだけ。
漂流しているときの気持ち。
僕たちは どこにでもいる厚かましい人間。
いつか歩くことができなくなる その日まで、
あなたと歩いていたい。
もっとポップに。もっとたっぷりと びくびくして。
本日は、
家庭円満の美しさが生まれました。
人形劇の雰囲気をまとったモンシロチョウが
誰に期待することなく飛んでいます。
私は緊張でふるえました。
「何を緊張してるの?」
木材のような顔した弟が私にそう言います。
「説明するのはとても難しい」
そう言った私の体からは焦げた木の匂いがしました。
焦げた木の匂いは私の緊張を和らげました。
なぜでしょう。
そんな時にホウレン草のおひたしのことが頭に浮かびます。
野菜でも洗っているかのような表情で弟は、へそを見せました。
弟の、へそが見えます。
なぜでしょう。
そんな時にホウレン草のおひたしのことが頭に浮かびます。
ホウレン草のおひたしのことを思いながら、へそを見ています。
夜、街灯に照らされて水面が輝くように、へそが揺らめいています。
「川の流れのように
ロールパンは浅黒い肌の女ですか?」
わたしの父親は、わたしにそう言って、
サンドイッチを指さし、中庭ではしゃぎ回る。
自動車にはねられる演技をしたり、
竹の子になりきって、
上へ上へとのびていく演技をしたり、
わたしの父親は、中庭ではしゃぎ回る。
「親であること。親になること。
言っておきたいことがあった。
あなたはすばらしい人だ。で、あなたって誰ですか?
そしておれは親をつづけたいと思っている。
親には父親と母親があって、そしてそれはとてもすてきだった」
わたしの父親は、わたしにそう言って、
「君につげよう、まよわずに行くことを」と
中庭にある大型犬の置き物にそう言った。
老人介護の汚さを、本音だと思った。
湯気の立つ肉親の血は、平和な昼ご飯のようだ。
坂道を静かに上って行く他人の横顔を、
新しく愛している。
おだやかに、冷酷に、
この身をまかせて、身を寄せ合うように、
新しく愛している。
よかった。 今日も君と並んで歩いている。
「心の広さを、自分で作るんだ」と君は言った。
「きらわれものは、さらに きらわれていこう」と君は言った。
「くだらないものは、なんて くだらないんだろう」と君は言った。
「精一杯に、仲良くやっていきましょう」 君は言った。
激しくなる。ぶち壊しになる。宙ぶらりんになる。
和らいだりする。僕は助けてほしかった。僕は助けたかった。
僕は思いつきで壊していく。僕は思いつきで壊されていく。
他人の体温を唯一の励みとして、たくさん笑って、
たくさん緊張して、たくさん風に吹かれて、君の声が とても優しい。
思想、人でなし、目覚まし時計、
老いぼれ、ニッカポッカ、紙風船、奥ゆかしさ、
温かい振動、ほくろ、虫、女の耳の穴に突入するツバメ、
そのどれもこれもシャッフルしよう。
耳の穴に入り込んだ人でなしを上手に抜き出すには
体の力を抜くのがコツらしいよ。
そして季節が過ぎる。ふてぶてしいまでに柔らかい季節。
柔らかい季節の真ん中に小さい穴があって、
そこに指を入れれば柔らかい季節は滅んだんだ。
だから、もう一度その小さな穴に指を入れている。
そこには、
人間のはらわたが荒れ地を走り回っている気配があった。
そこは、明らかに、馬が馬を出産する匂いに満ちていた。
足の裏に心がある。
足の裏に心が埋め込まれていた。
心は かすかに波打っている。
それは落ち葉の積み重なりのようなものだ。
心は みじめな気持ちを隠さないで生きている。
君は今も自分の心を好きか?
何にも媚びないで自分を生きている心だ。
特別な時には
寂しさがいて、
寂しさと僕は
素直さについて話し合った。
「素直さっていうやつは
ずっとふざけてるだけだから
大好きだ」と寂しさは言った。
「素直さっていうやつには
邪悪なところがひとつもないから
かっこいいな」と僕は思った。
「そのくせ、
誰にも理解されないような邪悪さを想って
号泣したりもするんだから
素直さっていうやつにはかなわない」
「素直さっていうやつは
夜の黒色から生まれたダンスを踊っている」
「素直さっていうやつは
窓から朝が入ってくるみたいに普通に暮らす」
水がきらめいている。私はしっかりおびえている。
ひと組の夫婦が修正液で水のきらめきを白く塗りつぶす。
水のきらめきを白く塗りつぶした。
修正液の白さが突き抜けて、謎めいた光になった。
謎めいた光は歩いて移動する。
謎めいた光は防弾ガラスを、歩いて突き抜けた。
謎めいた光は私の隣に腰を下ろした。
「知らない誰かを好きになって、私たちは今日を突き抜けて生きています」
謎めいた光は言いました。
私は細く長く笑いました。謎めいた光も細く長く笑っています。
時計が止まるほど、
今日も強烈に生きてる。
きょうもきょうれつに生きてるけだもの。
おしつぶされそうになっても、
じっさいに、おしつぶされても、
きょうをきょうれつに生きてるよ。
生卵にめり込むように生まれて、
底知れない楽しさを生きている。
フリーハンドで描かれた線とか丸とか曲線のように、
ほどけながら、ほころびながら生きてるけだもの。
けだものは鼻水をすする。
鼻水すする音が音楽みたいで、
聴いていくうちに、どんどん色っぽく聴こえてくる。
こころの底辺に月の光があった。
黒い海をゆっくりと進む月の光。
月の光には名前があった。
心臓太郎という名前。
「すべての行為が罪の積み重ねであっても、
とまどいと疑問に満ちあふれながら僕は進む」
しんぞう、うずいた。
いつか僕は心臓太郎と2人きりで旅に出る。
電車とか船に乗って、
研ぎ澄まされた優しさによって突き進む。
耳をすませば
毛穴が凶器になる時代なのかもしれない。
足元の枯れ葉を踏みしめる音が
途方もないエネルギーを実感させるメロディーかもしれない。
今日は多分、昨日なのかもしれない。
他人のソックスが
僕たちの部屋のどこかに落ちているかもしれないし、
そのソックスは、
何か始まりそうな空気に満ちているのかもしれない。
と思った六秒後、
僕たちは怪獣だったのだ。
辞書で怪獣を調べたら、
怪獣とは「恐竜などをもとに創作した特別な力をもつ生き物」だった。
僕たちの白い息が満月に届きそうな夜。
あなたの寝ぐせのついた髪型は、僕のほくろに優しかった。
感情と理性のはざまで、
悲観的に準備し、楽観的に行動する僕がいる。
孤立をさらけだしていること。
それは薄っぺらだけど、見せかけではない自由な気持ち。
はじめて動いた時から、
平和な時も非常時も、あくまで等身大の暮らしをやっていく。
それは最初から「未完」であったのはもちろんのこと、
最後の最後まで「未完」なんだ。
この場所も、ここにいるみんなも、
何もかも、いったいなぜ、ここにいてこんなことをしているのか?
いつかのあなたの声が、何だか胸に刺さって、
何だか、
あなたに会いたくなって、
結局はほんの一瞬だって会えないことを思い知る。
涙が出るよ、こんな世界。
かけがえのない毎日の重みやむなしさに心細くなったりもするけど、
「運命なんて野良犬のおならだから、生きることに迷うなよ」
なんて笑って、
目の前の晴れた日の暖かさを確かめた「僕たちの等身大の暮らし」
僕は そっと思い出してしまう。
深く傷ついた経験や、大切なものを失った気持ちを。
僕は そっと思い出してしまう。
汗だくになって、雪かきをしたことを。
手間も暇も命もかけて、
僕たちは絶え間なく爆裂してゆく生活だ。
永遠の8月の物語を、たった今、
この星空の下で爆破してみせよう。
痛みは見えるか?
そこから、痛みは見えるか?
僕たちは生きているんだから、安らぎなんていらないよ。
矛盾だらけの暮らし。生きている人は学習を続けよう。
生きているってことは、ささやかなことです。
生きているってことは、
何からも見放されてしまったという、感動的な想いです。
今日はいい天気なので、布団を干して、
布団に大切なのは「日なた」なんだって、憶えました。
のんびりして、平和な一日です。
やはり布団は何かと役に立つものです。
私たちの洗練は、私たちの素朴さをなくさない。
一秒で消えた私たちの寂しい嘘だって、
思い出して、優しく笑って。
日なたがいっぱい降り積もったような布団に、
体をあずけて、夢を抱きながら、優しく笑って。
「一瞬」と「永遠」が愛し合うみたいに、
出会いの記憶を込めて、あの頃の私たちは何に感動したの?
あの頃の私たちは何を怖がっていたの?
目をそらさないで。ただそれだけ。「オーライ」「オーライ」
私たちの「オーライ」で、人間という名前の一日を満たそう。
雪が降って、俺は雪に埋もれて、
世界の匂いがした。
二歳の俺がペンを走らせる音が聞こえた。
俺はかつて二歳だった。
青春という名前の老人が
二歳の俺を抱きしめて歩いていた。
「あなたと出会えたことが、一番のしあわせだった」と
青春さんは言った。
「胸が締めつけられるけど、
胸が締めつけられたままではいられないから」
この世の中心に青春さんは立ち止まって、
青春さんの首筋から、世界の匂いがした。
青春さんの耳の穴からは、
二歳の俺がペンを走らせている音が聞こえた。
「すべては生きるために」「しあわせを恐れない気持ち」
二歳の俺がペンを走らせて書いた言葉と、言葉の匂いが世界。
「無駄のような、きらびやかな、
ちぢれた脳細胞のオレの妻になってよ」
紙くずみたいな男の声が始まる。
「無数に口を開いて、骨まで愛して、
許されないまま、
信頼とタワゴトを組み立てていきましょう」
アイスクリームみたいな下着の女の声には、
孤独な怪物が夜中の砂浜で
ひっそりゴミ拾いしているような味わいがあった。
この味を知ったら、
この味を知る以前にはもう戻れないということを
ちぢれた脳細胞の男は知っている。
「あなたの右手はタコの記憶でできていて、
左手はもちろんイカの記憶で、
左手の中指だけが白鳥の記憶でできていますよ」
アイスクリームみたいな下着の女の声が、
アイスクリームみたいに溶けて、雪に変わった。
雨の音に目ざめて、一日の始まり。
思いつきの落書き。かけがえのない会話。
とくとごらんあれ。
「わたしの神様を温めてよ。
あなたの神様は、わたしが買って来たから」
待ったなしの暮らしを越えていく。
できごころや血なまぐささを越えていく。
ぼろもうけや、まるもうけを越えて行く。
あこがれを越えて行く。縄張りを越えて行く。
雷雨と産業廃棄物が、脳内出血のような紫色。
紫色のポケットの中では、紫色の寿命たちが転がっていた。
たくさん転がっていた。
わたしは寿命という言葉が嫌い。ゲリラ豪雨が好き。
君の横顔が好き。君の呼吸の音が好き。
ワガママから始まっていない優しさは嫌い。
竜巻きを歯で食いちぎるような優しさが好き。
究極な普通って感じで、淡々と過ぎ去る優しさが好き。
感動の爆発が大きくて、叫ばなければ頭がおかしくなってしまう
っていうくらいの優しさが好き。
一日の最後には、絶対に幸福を思い知る優しさが好き。
生きているかぎり、
あなたと過ごす楽しさを生き抜きたい。
まっしぐらに、めまいを感じたりしながら、
うれしさや寂しさを笑いあう。
なにげない大切な時間。
必死の声をあげても、二度目はありませんでした。
一日一日、きれいときたないとが同時にある場所で、
堂々と手をつないで歩けばいい。
堂々と抱きしめ合えばいい。
堂々と憎めばいい。堂々と口笛を吹けばいい。
口笛からこぼれ落ちる愛情を僕は一滴も逃がさない。
一日一日、僕は今日も初めての恋をしていて、
あなたと過ごした楽しさに、堂々と涙を流せばいい。
あなたと過ごす寂しさを、堂々と笑い合えばいい。
頭の上で惑星が飛んでる。
私が踏みしめる この惑星も飛んでいる。
新しい鼻歌が のんきそうに空を飛んで行く。
どこまでも続いていくレインボー。
どこ行くの あんた? で、人間って何だ?
「そんなもん知るか」
子宮から出てきて、あなたと出会って。
出会えてよかった。
それでも、あなたが言いたいことは すべて言わなければ、
そして、あなたがやりたいことは すべてやらなくては、
それが私たちの生活なのだ。
構うことはない。 好きにやってくれ。
私は針と糸で、ちぎれた心臓と体を縫い合わせた。
生きるために何が必要なのか?
生きるために必要だと思えば、何もしないで空を見ました。
生きるために必要だと思えば、便所掃除をしました。
生きるために必要だと思えば、自然や書物を、音楽をいたわりました。
隣人をいたわりました。
人生の伴侶や子どもたちに身も心も捧げました。
生きるために必要だと思えば、
拳の皮膚がめくれて、骨が出てくるまで詩人を殴り続けました。
路上には血だまりが広がって、
蜜を吸うみたいに二羽の蝶々が その血を吸っていた。
ひとつの目玉が空の彼方に飛んで行った。
面白い生活は この世に必要だ。
他人同士が肉親以上の絆を結ぶことが地に足の着いた楽しさだ。
確かに、私の体の深くに あなたの血を頂きました。
あなたの骨を頂きました。 それは、俺の血と骨になった。
ゆっくり時間が進んでいる。 「おもしれぇな」
「目玉の一つや二つ くれてやるやんけ」 「いったらんかい」
俺の目玉は 真夏の朝の日差しに吹っ飛ばされて、
幻の蝶々になって、南米のアマゾンで暮らしてる。
人間の腹の底の底で暮らしている。
あなたと出会えてよかった。
僕は いつだって君に夢中だ。 俺は いつだって君に夢中。
出会いは いつも短い。
甘い言葉をささやいたり、すねて見せたり、
大勢の人がいて、
こんなに寄り添って暮らしている。
食器を洗ったり、子どもが生まれたり、愛撫したり、
朝でも、昼でも夜でも、嘘つきでも、変態でも、
飯を食って糞するということ。
「もっと音を立てて」
もっと音を立てて、媚びている自分がいる。
わけも分からず媚びている。
いくら隠しても、誠実は現れてしまうのだから、
根底に流れている誠実さって、まあ、のどかですね。
にじみ出ちゃうっていうのが、すごくスケベで優しいよ。
男の足は冷たかった。女の太ももは暖かい。
ただの労働、ただの生き物、ただの生活、ただの興奮、
そして、それは とても怖い。そして、それは 少し恥ずかしい。
恋人たちは見つめ合ってしまう。
生まれたばかりの赤ちゃんは、思う存分に濡れている。
あなたと街を歩くのが楽しくて、
風に吹かれると安心した。
いつも何かに助けられた。
必ず誰かが働いている。
あたりまえのことができなかったこと、
白い息を吐きながら自転車で走った朝のこと、
そういうのを思い出したりして、
歯ブラシを買いに行く、夜の道を。
それは私にはロマンチックに見えていた。
ゴミ箱の中でも ずっと愛し合う。
ちょっと まぶしいくらい、
私の愛情は絵にならないドライブ、または、
綱渡りのように猜疑心を止めない星空。
何かが起こるのを待つ。何かが起こっているのを味わう。
目の前で起こっている出来事を祝福する。
美しくもないし、自由でもない、普通の人たちが、
人を待ってたり、電話したり、笑っていたり、見つめ合ってたり、
目の前で起こっている出来事は、すごく静かな可能性だ。
ちょっとずつ、目の前の出来事が僕から離れて行く。時間が過ぎていく。
目の前で起こっている出来事は、いつだって それが最後の瞬間だ。
「凄絶ですね」
40年も前に死んだ人が書いた落書きを、毎朝読んでいる。
「凄絶ですね」
目の前で起こっている出来事は いつでも一生懸命だ。
あらゆる出来事は頑張っている。きっと頑張ることしかできないだろう。
でも、いつだって もっと頑張れただろう。
生まれて一週間で死んでいく赤ちゃんも、九十億年 浮かんでは消え入る惑星も、
あの人の落書きや あの日の妄想も、きっと頑張ることしかできないだろう。
でも、いつだって もっと頑張れただろう。
出産は娼婦に似ていて、娼婦は落書きに似てる。
目の前で起こっている出来事は、いつだって もっと馬鹿馬鹿しくなれるだろう。
そこが好きだ。
もっと馬鹿馬鹿しい空を見てほしい。もっと馬鹿馬鹿しい路上に触ってほしい。
もっと馬鹿馬鹿しい体液を流して、もっと馬鹿馬鹿しい生活を味わってほしい。
でも、いつだって もっと馬鹿馬鹿しくなれるだろう。 そこが好きだ。
地平線の上に、闘牛士と牛がいた。
シマウマをつれて散歩している女の人がいた。
闘牛士の体は厚みがなく、
一枚の紙のようで、
健全な弱々しさを実践して、そして生き残っていた。
弱さは とっても悲しかった。
悲しいけど、優しいって感じがした。
闘牛士は牛の突進をかわして、
通り抜けていく牛の体に剣を突き刺した。
牛の体は厚みがあって、一個の隕石のようで、
原始的な強さを実践して、そして消耗して、
消え去っていく。
闘牛士が牛を殺したら、シマウマは涙を流した。
女の人はシマウマの目の中に、光り輝く惑星を見ていた。
ゆっくり暮らしています。
それは私そのものだ。
私は服を脱いで泳ぎに出かけ、
水中の魚に追いついてみようと
懸命になっている。
魚の跳躍に突き動かされて、私も跳躍する。
意味を持たない水の音を聴いた。
「ぽかぽかだね」と魚は言った。 魚の声は暖かかった。
魚の声は私の体のどこかで、体温に変わった。
両腕で包むように
父親を抱きしめた。
父親の命は父親の体から
はみ出して床に落ちた。
父親の命はロールパンみたいだった。
いつだってロールパンみたいな命だった。
「行方不明のトマトを、
リムジンに乗ったタマネギが見つけたんだぞ」
命の はがれ落ちた父親の体が そう言った。
むき出しになった父親の命は疾走する。
疾走する父親の命は自らブレーキをかけ、
火花を散らしながらストップした。
ふくよかな火花を散らしながらストップした。
気持ちのいい夕方みたいな火花だと思った。
命の はがれ落ちた父親の体から体温を感じる。
「惑星は やけに丸いな」 父親の体は そう言った。
二人の体が、一つの家庭に侵入してきて、
ハミングと銃声を鳴らして、
馬鹿馬鹿しい安っぽさと、
焼きたての食パンにも似た体臭を発散させて、
素敵な足音をたて、
むき出しになった足の裏が、
鉄のズガイコツさえ砕いてみせて、
「こんなことより、まずはタップダンスをやらなくては」と言って、
二人の体が、むき出しになった足の裏で、
タップダンスを始めた。
交尾中のシマウマのようなタップダンスを始めた。
二人の体が、筋肉の力を感じさせる。
短い首、そして短い脚が たくましい。
タップダンスは丸見えだった。
二人の体が、丸見えのタップダンスが、
隅々まで和やかな音になって、心地良く耳に届いた。
幸せという言葉を引き金にして、引き金を引くことで、
何らかの衝撃が生じる。痛さのあまり、自分が死んだものだと信じて、
倒れたまま動かなくなってしまった物語がある。
クラリネットを吹いて走り回っている物語もあった。
肉体を押しつぶされても、それでも、
ピースサインを青空へ飛ばしてみせる物語もあった。
新しい青空が自分の体のなかに宿ったことを知らされて、その出来事を
噛みしめている物語もあった。
華やかでも劇的でもない物語って何だろう? 普通の物語。普通の青空。
それは、コンクリートの裂け目に咲いた花のようだった。
誰にも触れられたことのない土のようだった。たくさんの顔があって、
たくさんの嘘があった。誇りや退屈や好奇心があった。
ひたむきであるが、と同時に気まずさがある。何ていうか、
よくわからない青色や物語がある。理性と素朴さが高層ビルから飛び降りても、
路上に激突するまでは怪我はしない。それでも立ち直ろう。
じれったさが進化を続けても、びくともしない物語がある。
みっともなくて、すがすがしい青空を、みっともなくて、
すがすがしい出来損ないを、俺にくれ。大切な面影を、大切な戸惑いを、
俺にくれ。報われないことが青空だった。太陽の中心のマシュマロみたいな部分を
口の中に入れたら、どうなると思う?
条件さえ整っていれば、物語は物語を滅ぼすことができた。
滅ぼされた物語は、滅ぼした物語を知っている。それでもまだ、
何もかもを試してみたわけじゃない。ただの物語を続けよう。地味なやつ、地道なやつを、
俺にくれ。先回りしないで、ただの物語は一つずつ風に吹かれている。
あっけなく私は、たっぷりと心を込めて、私の心を地面すれすれで飛ばして、あなたと出会った。
あなたと出会っている。報われない青空が、私の心臓になる。
太陽の中心のマシュマロみたいな部分を口の中に入れたら、私たちの言葉になった。
色彩を かき分けて進む。
乾いた夢、乾いた雑草、乾いた歓声、
無邪気な足跡、大きな焚き火、
野心と博愛の混合、つかの間のエロチック、
適量のやましさや軽薄さ、傷跡のような記憶。
女は泥の美しさに見入っている。
男はフランスパンとガードレールを組み合わせて
ドレスを作った。
受け取ること、手放すこと、強弱、
ささやくように、身の丈の話をしよう。
身の丈の力で、自分の身の丈を積み重ねよう。
他人と自分を すり替えないこと。
私は自分と他人を すり替えてしまうということ。
私は生きていくのが精一杯だということ。
助けてください、という声しか出せない。
助けてくれて ありがとう、という声しか出せない。
助けてくれて ありがとう、という声を積み重ねよう。
「助けてくれて ありがとう」
身の丈の力で、悶えにも似た自分の本性を積み重ねよう。
おはよう、あなたと私は まだ結びついていた。
おはよう、私は自分の強さを認めるしかなかった。本性は本日も生きている。
「おはよう」私の本性は本日も生きている。
真夜中の半分は個体で、
もう半分は液体だった。
個体と液体が衝突して、
気体が産声をあげる。
少し汗ばんでいる素肌に向けて
産声をあげる。
砂浜の砂の その感触に向けて産声をあげる。
産声が笑っている。
産声の半分が個体になって、もう半分は液体になった。
産声は桃色で、桃色が回転していた。
猛スピードで回転していた。
新しくも古くもない、それは ただ生々しい。
誰かの手のひらの上で、猛スピードの回転は、
今ではもう スローモーションになっていた。
誰かの手のひらの上で、いつかの真夏の日に、
命だけを頼りに、スニーカーをつっかけて
僕たちは出かけて行く。
スニーカーをつっかけて僕たちは出かける。
それが すべての姿なのかもしれない。
あいまいさと じゃれあうこと。
体力の無駄づかい。
見境なく練り歩いていたら、林や畑が見えた。
林や畑は離陸を始める。私は離陸する林に欲情する。
離陸する畑にも欲情する。欲情は私をあきらめなかった。
結局は欲情の望みどおり、私は唾を吐いた。
吐き出された唾は ゆっくりと地球の裏側まで滴り落ちて、発火。
心ゆくまで ふしだらな、日だまりにも似た、発火。
躍動感が何なのか分からなかった。
うぶ毛が何なのか、
沈黙が何なのか分からなかった。
動き回るヒトのカラダ。その過酷なまでの分からなさ。
わけが分からないという気持ちになった。
それはグロテスクであり、みずみずしい告白だった。
動き回るヒトのカラダ。動き回る告白。
背もたれに花が咲いているイスがあって、私は腰を下ろした。
そこからは自分の影がよく見えました。影って面白い。
影は弱々しさを保っている。その弱々しさには心がこもっていた。
すべてを目撃することはできないけれど、
心のこもった弱々しさはワイルドなバッドトリップを知っている。
自分の思い込みを吹き飛ばしてくれるワイルドなバッドトリップ。
動き回るヒトのカラダ。動き回る連想。
自分を疑うというアイディアが罪になって、
そして、自分を疑い続ける体力が私の罰になった。
いわれのない罰、受けます。
決定的な宇宙の力強さに巻き込まれながら、
個性の弱々しさを実現し続けている暮らしは確かなエンターテイメントだと
思っています。
動き回るヒトのカラダ。動き回るワイルドなバッドトリップと踊る営み。
すべてのワイルドなバッドトリップが眠りについた後に、イルカはイスの夢を見る。
だだっ広い野原のようなイスの上で、私は寝転んで詩を書いた。
「木こりは結局いつも斧を手に入れる」
「アルコール中毒者はアルチュウと呼ばれた」
「アルチュウの作り笑いは地球の上に立ち尽くしていた」
「うそいつわりなく、立ち尽くしていた」
「あなたの作り笑いは他人の欲望によって変形する」
「変わり続ける」
「あなたの作り笑いが永遠に広がっていく」
「何一つ、死んだままではいられないのでした」
「粘り強い作り笑いが太陽に届いた」
「あなたの作り笑いは太陽の上に立ち尽くしていた」
「洗いざらい、立ち尽くしていた」
「もっと洗いざらい、立ち尽くしていた」
「何ごともなく、空には満月が浮かんだ」
「誰からも見捨てられた動物は骨のようなその肉体を光らせた」
「満月は無防備な液体となって地面に落ちた」
「地面に広がる満月に木こりは斧を振り下ろす」
「音が鳴る」「みずみずしい満月の音が鳴る」
「アルコール中毒者はアルチュウと呼ばれた」
「アルチュウは地面に広がっていく満月をすくい上げて顔を洗った」
毒ぐもとゴミを土台として、
ワインと良心と落雷を土台として、
砂漠と砂場の迫力を土台として、
赤ちゃんの脳裏に焼きついたのは
テーブルの上に置かれたコップだった。
ガラスのコップに水が、注がれていた。
同情も感傷もない水が、注がれていた。
その光景は刻一刻変形するものだと知って、
赤ちゃんは恋に落ちる。
落下の切なさを さらけ出して、
恋を存分に味わってください。 恋の果てには言葉がある。
明日で世界が終わろうと、
そもそも世界は終わることがなかった。
屋上では洗濯物が風に揺れている。
「行ってきます」という子どもの声。
朝ごはんは白い湯気を立てていた。
世界は私に そっと触れてくる。私は とまどってしまう。
あなたの言葉と 私の言葉は一致することがない。
予感には いつも事実がひそんでいた。
あなたの言葉と 私の言葉は一致することがない。
私は それをまともに受け取ることしかできない。
何回でも受け取ることしかできない。
不意の晴れ間に 私は気が狂うかもしれない。それでも 私は生きていたい。
何を克服したのか?
何を克服できていないのか?
苛立たしさと苦痛に満ちて、
わたしは
どんな虫と比べても
それ以上に虫である。
無意識に退屈から逃れようとする虫。
自分を正当化するために声高らかに歌う虫。
わたしは何も知らない。
同時に何かを知っている。
足を滑らせて骨折しないように、
雨上がりの泥の上を歩いた。
確実さを込めて歩いた。
どこにも行くあてはない。
何からも許されていないことを知って、
わたしは心の底から笑った。
はじめまして、
薬指と中指の燃えかす。
青いボウリングシューズも、
これからもよろしく。
わたしは うれしくて にこにこしている。
どうして こんなに よろこんでいるのだろう?
あなたの顔も声も、遠かった。
わたしは この距離の中に ずっといるんだな。
わたしは今日も びくびくしている。
わたしは すごくゆっくりと深呼吸した。
わたしは猛スピードで足の指を動かした。
わたしは当たり前のこととして、おろかさを選択する。
わたしは冷や汗を愛する。
わたしは久しぶりに この街を ひとりで歩いた気がした。
わたしの足元にはビニール袋が落ちてあった。
ビニール袋は精一杯に、ビニール袋だった。
はじめまして、
わたしはビニール袋を愛する。
あなたの顔も声も、これからもよろしく。
ようやく出会うようになった。
僕たちは むごいことをする。
お互いに むごいことをする。
これを読んでいる あなたは本を出産している。
本を育てている。人間の神経を呼び寄せる。
もがく。
人間を繰り返す。前後も考えないで息をしてる。
誰かの腹の上に唾を落とす。
誰かの顔の上に唾を落とす。
誰かのベロの上に唾を落とす。
僕たちの唾の中に血が混じっていた。
たった一滴で 人間を証明する血が混じっていた。
僕たちは触れるだけで お互いの肌の色が分かるようになった。
僕たちの液体が こぼれている。
実は これも永遠です。
唾を飲み込む音と、ようやく出会うようになった。
僕は安心して、もう一度 安心した。
世界と自分と灰皿と
たぬきとガラスの表面や米粒を
ただ信じた。
潰れた遊園地や汗や
安宿のロビーやサービスエリアを
ただ信じた。
「他にすることがない」
「ほんと地味で地道な反復は素敵だ」
「貧相で、なまなましく」
「疲れて、恥ずかしい、みっともない」
「そして、わたしは女の幽霊を塩で ごしごし磨いた」
「わたしは いつの間にか暗闇を睨んでいた」
「少しも劇的ではない」
「何かの続きということなんだ」
「夜を生きのびるとき、助けになるものは他人の産声だ」
「地味で地道な声だ」
「暗闇が深まり、涼しい木々の香りが退屈を飲み込んでいく」
「行ってきます」
「わたしの詩は裸で、裸の詩は他人の裸に触ることができた」
「わたしの詩は、歌を妊娠する」
「わたしの詩は、新しい名前を産み落とす」
「口にする」という言葉には、
「飲み食いする」という意味と
「言葉に出して言う」という意味がある。
これが僕の命の成果です。
気が狂ってしまうという可能性を懸けて、
僕は道ばたに転がっている命だろうか?
何の手下にもならないように、
何も手下にしないように転がっているだろうか?
終わりのない寄り道を宙ぶらりにして、
あなたの視線は僕の視線を見つけている。
僕は知っていた。
「心から世界を愛している」という言葉には、
「人間は滅亡する」という意味と
「だけど人間は滅亡しない」という意味がある。
異物として朝がある。
異物として平らな土地がある。
異物として雑草が伸び放題になっていた。
異物として動物が車にはねられて、
異物として見捨てられてしまった。
異物として車にはねられた動物は
異物として後ろ足が壊れて真っすぐに進めない。
異物として壊れた足音がある。
異物として足音が朝を包み込んだ。
異物として全くの足音がやって来る。
異物として全くの暗闇がやって来る。
異物として呼吸する音が聴こえる。
異物として唾を飲み込む音が聴こえる。
異物として唾を飲み込む音は、流血であり、
良識であり、よくよく考えたら全くの無惨で、
でも、それはもしかすると子守唄である。
異物として動揺して、異物として心細かった。
異物として異物に励まされて、
異物として丸ごと犬死にした後で、
それでも、異物として異物は止まることがない。
できもしないことを
できるようにはみせない人だった。
誰も気づかない隙間に発芽した人だ。
その人は礼儀正しく安っぽい悲鳴を
上げたりもした。
その人はヘラジカの腹を切り開き
臓器を引きずり出す夢を見た。
引きずり出した臓器をふくらませて
空へ飛ばしたりもした。
遊びに出かける子どもを見送るように
その人は空へ飛んで行く臓器を見つめていた。
空を飛んでいく臓器は赤かった。
それは果てしないような赤さ。
水たまりの水が鏡みたいに犬の出産を映している。
犬の出産から熱気を含んだ甘い香りが漂ってくる。
「ご苦労様です」と女が言った。
うぐいすの鳴き声も聴こえた。
真新しい春に話しかけるように女がジャンプする。
女は水たまりの上に着地する。
水しぶきが うぐいすの鳴き声と衝突して春の夢になった。
春の夢は暖かい。
あなたの
よだれでできた
野良猫がいました。
野良猫は一匹で歩いた。
歩く速度は
きわめて遅く
その足跡には
小さな水たまりができた。
耳を澄ませば
小さな水たまりから
動物の寝息が聴こえる。
小さな花びらのように
空中を泳ぎ回る寝息だ。
肉体労働者の音を
夢の中で聴いた。
肉体労働者は汗をかきながら
黙々と作業する。
いい音のする体液を
路上に吐き出して、
肉体労働者の濡れた目は、
雨や体液で濡れた道路と同じだった。
幻と、すれ違っていた。
なんとなく、すれ違った。“おめでとう”
どうでもいい気もしたし、
どうでもよくない気もした。“おめでとう”
意味を求めたのは愛の過剰です。“おめでとう”
あいまいさは、弱さのことではなくて、
あいまいさは、略奪の歌でした。“おめでとう”
他人のことで心を痛めること。“おめでとう”
いろいろなものを台なしにしてやろうと思いつくくらいに、
いろいろ台なしにされてきた人たち。“おめでとう”
路上で寝そべって聴く心臓の音。“おめでとう”
「太陽は私の心臓の音だ」と、幻は言いました。
「深海魚みたいな物語はどこで買えますか?」と、
台なしにされてきた人たちは言いました。
ところどころで、丸裸になったり、もがいて、もぎたての、
本当に真剣な声だった。“おめでとう”
何でもないものとして、本当に真剣な声が生まれていた。“おめでとう”
朝がある。
愛のような朝は始まったばかりだ。
わたしは今日も出来損ないで、
ほんとうのことから目を背けるだけ。
朝日の差し込む部屋で、
ただなんとなく、穏やかな気分だった。
穏やかな気分って、とても簡単だ。
女房と九官鳥が同時に「わん!」って鳴いた。
しばらくして、
わたしの腹の虫は「にゃー!」と鳴いた。
ひたすらベッドの上で、血と肉が騒ぐ、
とりとめなく、頭の片すみで、さまざまな国で、
素朴ないかがわしさと、弱々しいけど綺麗な目。
わたしはどこ?
ここはなに?
夢も現実の一部として、取り壊し可能な生活を、
すこやかに、はぐくんでいます。
ふっくらと笑顔が生きのびること、生きのびていること。
クズにもなれない、
かといって美しいゲロも吐き出せない人たちに、そんな笑顔たちに、
わたしは優越感をもって接しているのかもしれない。
そして、わたしは笑った。
この笑顔は、わたしがこの世界で発したものなのか、
この世界が、わたしに発しているものなのか、分からなくなって、
梅干し入りの焼酎のお湯割りで、
たぷたぷになったコップの中から、
わたしは割り箸で梅干しを取り出し、そして、口の中に入れる。
日ごとに弱さを認める弱虫が
今日も生きている。
置き去りにされているものに
弱虫は唾を落とした。
置き去りにされていたものから
カラフルなあえぎ声が生まれた。
限りなく底の浅いあえぎ声が生まれた。
あらゆるみじめさや愚かしさが
恋いこがれるあえぎ声だ。
あらゆるみじめさは
こそこそセックスしてる。
愚かしさは私の家族だった。
育児をもっと凶暴にしたら戦争になった。
戦争をもっと凶暴にしたら出産になった。
カラフルなあえぎ声があふれて雨になる。
あえぎ声が外にこぼれて雨になる。
雨が地面で砕けた音のその素朴さは
愛することの無邪気さそのものだった。
一個のじゃがいものように
抱き合って眠った。
じゃがいもに耳をあてると
ふたつの寝息が聴こえた。
雨も水たまりもゴミ箱も人ごみも
目一杯感じながら
僕の頭の回転はのろまです。
そんな気持ちで
あなたと手をつないで歩いた。
地面のひび割れ、
地面すれすれで飛んでいる鳥。
見覚えあるものはひとつもなかった。
静けさは静けさを越える。
たとえば僕のまばたきも静けさのひとつで、
あなたの体温も高層ビルも静けさだった。
唇とおへそは汗をかかない。
涙は枯れない。
僕の息づかいが夜風になって夢を見る。
僕は夢の中で夜風に手をふった。
夜の友だちが働いている。
飼い猫の似顔絵を描いている。
自分の奥さんのことや
350㎖の缶ビールを誇らしく思ったりしている。
かすかに。
「咲き誇るだけが花じゃない」
「小さな畑を耕し続けた人の手のひらも花だ」
「何でもない」「何もない」
「何の用だ?」「そこで何している?」
夜の友だちが働いている。
飼い猫の似顔絵を描き終えると、
夜の友だちは夜の街に出かけた。
夜の友だちが この街を一人で歩いた。たしかに。
夜の街には葉っぱがあって、枝があった。
コンクリートがあって、風があった。
夜の友だちが風の中を思い切り走った。たしかに。
風の中、
夜の友だちが この街でゆっくりと、とてもゆっくり、
生きることを選んで、そして生きている。ほのかに。
ありありと
ものすごくしずかで、
しずけさを味わう人は
みだらだなあ。
着実に、滅びることなく、
出産を積み重ねていった。
出産は、
植物が息を吸い込んだり、
吐き出したりするのに似ていた。
みんなが服を脱いでいました。
なぜかというと暑かったから。
もどかしさ、ユーモア、やましさ、怒り、恥、
ラーメンの湯気、心臓の音、タンバリンの演奏。
「これは運動だよ」
お母さんは言いました。
「わたしの役目は、ビルに衝突する飛行機だ」
赤ちゃんは、そう思いました。
赤ちゃんは、誇らしくて、とても寂しかった。
大爆発が飛び交っていた。
地面がゆれて、ときどき青空が崩れ落ちてくる。
赤ちゃんは、青空を這って進んだ。
お母さんは、鼻から思いっきり青空を吸い込んだ。
青空は、お母さんの体の中で立ち上がり、
お母さんの体の中で眠り、飛び跳ねた。
わたしの見ている青空は、お母さんの体の中で育った青色だ。
明るい月の光が
色のある「けもの」を照らしていた。
道ですれ違った「けもの」は誰かに飼われていた。
それは放し飼いだ。
雨にぬれた路上が、僕たちを見張っている。
「そうだよ」と「けもの」は言った。
「わたしの唾液は、あなたの唾液につながっている」と
「けもの」はそう言った。
生きのびて、
ほっとすることを覚えた。
抜け落ちている。
発生する。
頭の中で数を数える。
目から入るものも
耳から入るものも一緒くたにして
「言葉」として飲み込む。
一部分として生きる。
「言葉」の一部分として、生きている。
手で探る。舌で触る。鼻で吸い込む。
始める力。
突き動かされる、という気持ちの躍動感は
何だろう。
「言葉」の彼方に向かう「言葉」の一部分として、
わたしたちは、
生きのびて、生きている。
得体の知れない音が
わたしたちの生活に流れ込む。
何百年も前から、すごくかっこいい音だ。
何千年も前から、すごくかっこわるくて、
何万年も前から、すごくかっこいい音だ。
「素晴らしいな」
「むかついてしかたがない」
「どうでもいいよ」
わたしたちの生活は、
この世界にすがりつこうと必死でもがいている小さい手だ。
小さい手。
「素晴らしいな」「むかついてしかたがない」
「どうでもいいよ」「わたしたちは」
「わたしたちの生活は」「おたがい」「いのちがけで」「がらくたで」
「むき出しの」「ためらいと」「その場しのぎの」
「なまなましくて、しんどい」「肉声の」「恥ずかしくて」「甘えた物語だ」
「何億年も前から、すごくかっこわるくて」
「何兆年も前から、すごくかっこいい物語だ」
あたたかい砂の上、
はだしだった、
手も足も踊っている。
手と足は、
ひかれあって、ひざまずいて、
まざりあって、はいずり回ったり、
食べた物をすぐに吐き出したり、
鼻水をたらしたり、
ひたすら泣きわめいたり、はっとしたり、
やりたいことがたくさんある。
そのうち、ぜんぶ忘れてよく眠った。
夢の途中で、
太陽の熱をもった果物と抱きあって、
誠実さは、涙になる。
すごく楽観的で、はずむような、涙だった。
風通しのいい家は静かだった。
理解しているか理解していないかは関係なく
夜空の穏やかな黒色が生命の温かさだった。
その温かさは毎日
僕たちの体に入ってくる。
僕たちの体から出ていく。
晴れた日の空の青色。純粋で巨大な血の赤色。
明日を思い出す要領で 昨日をなくしてしまう。
コウモリを飲み込んでいるヘビさんは
電気ウナギ君に電話をかけて「ぼくは だいじょうぶです」と伝えた。
畑の柔らかな土の上で 電気ウナギ君は叫び声を上げた。
街全体を覆う 大きな叫び声だ。
ビルが倒れた。鮮やかな水色の海岸は空に浮かんだ。
人々の背中は汗ばんだ。
柔らかく弾力があって 懐かしい叫び声だった。
大きな叫び声は這って進んだ。這って進むのは堅実だ。
吹きだまりのような老人だった。
ただただ不機嫌な老人だ。
いらだち、物事をうやむやにし、
酒に酔い、世間知らずの親切心を持って、
悲しみ、破産する老人だ。
老人は雪を食べた。
何の才能もない老人だった。
老人には何もなかった。
「焼き尽くされても、焼き尽くされても、
燃え残っている夢のことを、言葉だというのだ」
老人は言葉を発する。
地面に立っていた老人が顔を上げると、
たくさんの星が、すぐ目の前にある。
液体に拒絶された裂け目に耳を澄ませて、
あるいは、ほんぽうな愛情から高揚感と自由を抜き出して、
宇宙と必然の極限まで、
願わくば数十分に一度ずつ、単純に、
あなたを楽しませるのだ。
花より優しく、つぼみや雷より激しく、
容赦のない黒い瞳の奥には、背の低い人間が暮らしていました。
背の低い人間は嫌になるほど馬鹿で、手あかまみれで、
それでも誇りをもって、底なしに見えた憎しみの習慣を越えて、
「なにかの終わり」が生まれ落ちて、
「なにかの終わり」には裂け目があって、
あっという間に その裂け目は液体に拒絶されて、気体に拒絶されて、
個体に拒絶されました。
背の低い人間は成長するにつれて、
誰からも拒絶されていた裂け目に耳を澄ませて、確信をもって、
「なにかの和解です」と書かれたドアを そっとノックした。
「なにかの和解です」と書かれたドアをノックするたびに、温かい傷みを感じた。
その傷みは どこか心地良い。
手をつないで散歩しよう。
好きなことをやりとげるのは
ほんとうにたのしい。
いずれにせよ、選択することだ。
手をつないで散歩している。
太陽の照りつける横顔が、
完全な間違いや完全な正解にも負けない
完全な未完成だった。
あなたの横顔だ。近づいてごらん。
その横顔の正体が何か、私には見当もつかない。
朝となく夜となく、
くちはてた家々は
わたしの夢の中から抜け出したものにすぎない。
よくもわるくも今日は愛想笑いができなかった。
よくもわるくも今日は人前で歌がうまく歌えた。
大きな夜を包み込むように
わたしたちの歌が始まった。
大きな朝を包み込むように
わたしたちの夢が始まった。
わたしは、わたしたちの夢に小さな鈴を二つ吊るした。
一つの鈴は、息を吸い込む音がした。
もう一つの鈴は、息を吐き出す音がした。
わたしたちは生まれたときから ずっとこの音を聞いてきました。
いつもどおり わたしは、この音を大切に思う。
すごく悲しい気持ち。 現実。 どうすることもできていない。
どうすることもできない。 無力。 虫。 虫の息。 いらだち。 いらだちだけの関係。
どうして、やさしい気持ちになれないのかなあ? アホらしい。 知ったこっちゃない。
バランスを崩した。 くず。 くず人間。
「私はやる。私はやれる」って言ったその言葉を信じていた。
自分の笑顔のために戦うこと。 自分の愛するものの笑顔のために戦うこと。
自分の気持ち。 今の気持ちを信じる。
好きでたまらないこと。 照りつける太陽。 とまどいながら、生き残っています。
誰もいない、果てしない歌を とてものろのろ歌い続けるしかない。
とてものろのろ生き続けるしかない。
何も怖れるものはない。 僕は怖れている。 すごく難しい。 すごく簡単だ。
笑顔のために戦うこと以外、他に何があるかしら? 戦うことって何かしら?
そして続ける。 そして生き続ける。 ほんとうにうれしい。 僕の命をかけた世界は死んだ。
でも僕は生きている。 僕はおびえている。 僕は たぶん笑っている。
ひんやりとしたかろやかな雪が顔に降り積もっていくような気持ち。 人間、人間、人間、人間。
大失敗が人間だ。 無限の偶然を、無限の必然に読み違えるのも人間だ。
「命をささげるっていうのは、生き続けることなんだぜ」
僕は、いつまでたっても自分の笑顔が殺されるということを納得することができない。
僕は、いつまでたっても自分の愛するものの笑顔が殺されるということを納得できない。
理想主義、妄想、ケッペキ、たぶんそんな感じの くず人間だと思うよ、俺は。
くず人間、マヌケ、元気。 身をもって知ったこと。 他人と分かち合えるのでなければ、
それを持っているがために破滅してしまう、そういう富があるということ。
身をもって知ったこと。 ほんとうは言葉では何も現わせないこと。 お別れのあいさつをしよう。
いつかまた会うこともあるだろう。 僕の言葉に耳を傾けてくれて、とってもうれしかったよ。
ありがとう。 「悲しい気持ちなんかも、ベイビー、俺は愛してるぜ。」
時が止まったかと思えるほどの熱狂的な輝きを発して、
新しい名前がぽっかり口を開けていた。
その光景の圧倒的なマヌケさは、道ばたで少し湿っていた。
新しい名前がぽっかり口を開けていた。
その光景の圧倒的なマヌケさは、誰かの部屋で少し湿っていた。
あなたの頭の中で、海底や 地球外の惑星で少し湿っていた。
新しい名前は砕け散った。 新しい名前は、生まれた。
新しい名前はお金で買われたり、花嫁になったりした。
新しい名前は、
ピストルだか、ナイフだか、重たい灰皿だかで殺されたりした。
新しい名前は、近所のスーパーへ魚を買いに出かけた。
新しい名前は、目まぐるしい悲惨さや、欠落や 晴れ晴れしさだった。
新しい名前が現実だった。 新しい名前が現実を可能にする。
来る日も来る日も独りぼっちで生きていくことを可能にする。
来る日も来る日も独りぼっちで生きていくことを可能にするものが、
来る日も来る日も独りぼっちで生きていくことを可能にするものと、
関係している。
何回でも関係している。
何回でも限界はない。 何回でも、もっと大きく、現実を達成するだけ。
母親は“ただの夜”みたいに横たわっていた。
父親は野うさぎを追って、
思うぞんぶん躍動感を味わっている。
父親は“野性の苺”に似た目つきをしていた。
全身の神経から刈りたての芝生の匂いを発散させて、
父親は月明かりの後片づけをしたんだ。
野うさぎは不安げに、全くの暗闇を見上げている。
「たいした成果ではないけど、
これだって立派な成果には違いない」
母親は“ただの夜”みたいな声で、そう言った。
青い花瓶のなかに
女の粘膜を見つけた。
女の粘膜と多くの歌謡曲は直結していた。
女の粘膜は四つんばいになって注目の的になっている。
「価値のあるものを持っていない」と
女の粘膜は歌った。
「自己犠牲の精神は全くない」と女の粘膜は歌った。
「欲望は裏切られても美しいはずだ」「紙くずは真実です」
「腕や脚を失った人たちの頭から湯気がのぼって、
息づかいはロマンス小説そのものだった」と女の粘膜は歌った。
「茶色い音符は弱音を吐いた」「真っ黒い音符は怒りをぶちまけていた」
「深い灰色の音符は欲望を腐らせて見放されている」
「最小単位」「最も小さな物質は欲望なのに」と女の粘膜は歌った。
「破壊され続けてきた赤色の音符は素手だけで鹿を殺した」と
女の粘膜は歌った。
「熊が殺された」「狼が殺された」「牛が殺された」
「喜劇の後で悲劇が殺されて、悲劇が殺された後で喜劇が殺された」と
破壊され続けてきた女の粘膜が歌った。
「欲望は裏切られても美しかったし、馬鹿馬鹿しかった」と
破壊され続けてきた女の粘膜が歌った。
心拍数とかタンバリンとか細胞とか
ごつごつした両手で包み込んで
こんがらかった記憶力とともに
何度となく
取り消せないたぐいの安心感を分かち合った。
心の底から爽やかに笑えること。
欲しくないものは欲しくないものだということ。
あるいは単純に
取り消せないたぐいの欲望は
取り消せないたぐいの欲望だということ。
救いようがない欲望は勝つことしかできなかった。
もっと救いようがない欲望は勝ち続けるしかなかった。
負けるものはそもそも欲望じゃなかった。 それを認めた。
絶え間なく
取り消せないたぐいの生命は
勝ち続けるしか選択肢のない欲望だった。
永遠に勝ち続けるしかない生命が今日も勝っていた。
負けるものはそもそも生命じゃなかった。 それを認めた。
日だまりに のたうち回って、
母の骨の匂いを振り下ろす。
ほんの少しだけ、
性別も落ち込んだ顔も 開け放たれた音を刻む。
大胆不敵さを、はらわたが望んでいる。
目の前に広がる はらわたの大きさは倍になって、
また倍になって、また倍になって、
ほとんど夜の大きさになった。
産毛のはえた木材が裂け続ける夜だった。
アルミホイルに包まれたブルドーザーは鉄格子を抜けて
夜から出て行った。
他人の美しさに困惑するだけの肉の塊にならないように。
疑う心をやめないように。
おだてられれば それが傷口になって、ひからびて、
それぞれが それぞれの馬鹿さ加減を持て余しているような感じ。
愚かで孤独な生活をインクに変えて、
そのインクで手紙を書いて、その手紙は世界の崩壊にさえ似ていた。
月の表面には 手紙の中身が映し出されている。
月の表面から 甘くて懐かしい母の骨の匂いがした。
五角形の海鳥は時おり
海底の圧迫感を受信して うたた寝。
うたた寝をした海鳥の脳裏には
めくるめく月明かりが降りそそいでいた。
五角形の海鳥は人間の親指を身ごもっている。
人間の親指は海鳥の英雄だった。
五角形の海鳥は時おり
「予言が過去を侮辱するように、
記憶が未来を営んでいるのだ」と考えた。
五角形の海鳥は時おり
「重さのない棺桶は 声のない九官鳥と似ている」と考えた。
声のない九官鳥のことを考えるときだけ、
五角形の海鳥は あらゆる意味で六角形になった。
水中でもがいてるみたいに、
岩肌から岩肌の魂がすり抜けて、
夏が脈打ち始める。
食べかけのロブスターの写真を
狙撃する計画の果てに、
桃色の果物が熟しきっていた。
桃色の果物は桃の匂いを受け継いでいる。
桃の匂いが波打つのを感じながら、
狙撃手は桃色の果物を狙撃した。
弾丸、それは岩肌の魂だった。
岩肌の魂は日差しを反射させて銀色に光った。
岩肌の魂は桃色の大脳を貫通して、
桃色の後頭部から飛び出した。
桃色の果物は、桃色のひざから崩れ落ちて、
桃色の手のひらで、桃色の路上をかきむしりながら、
ただの桃色になった。
ただの桃色が湿気を帯びた風のように、
むせ返るような夏の到来を告げていた。
心臓発作かなにかで死んでも、
それで充分ってことではない。
あのできそこないも このできそこないも
力強い宿命だ。
飲み込まれたり食べられたりするものは
宿命を諦めたものだ。
「すっかり失ってしまった」と思っても、
「失ってしまったと思っていること」が、
「何も失っていないという証拠」だった。
黒みをおびた気おくれも 本格的に豚じみた顔も
殺すことはない。
幻覚より薄汚い愛だらけの幸せを、突き進めば人間だ。
人間は 昨日の人間よりも 今日の人間を絶賛する。
格別な湿気が勝利を手に入れて、
包み隠さず女に没頭している。
生き物の足首は研ぎすまされて、
巨大な老人の右手は自分の命を
わしづかみにするためだけのもので、
情け容赦のない、あるいはトウトツに巨大な老いぼれは
回収されていくだけのファッションで、
痛みや哀愁の一切がファッションだと思い知って、
海老フライから海老を取り外して、
傷ついてもまた自分の命に没頭するだけ。
品位というものを持ち合わせていないハイビスカスの花からは
満ちあふれんばかりの泥臭さ、突き出ている。
格別な湿気は本日も勝ち続けて、
ピラミッドとウリフタツの狼とか、勇ましい女の目つきとか、
命の尊厳も含めた何もかもを剥ぎ取って、
一切の計算高さを出し切ったら、素朴さが残る。
素朴さは帰ることを知らない。 出会えることを知っている。
くたくたに疲れて、決定的に、
呼吸の音だけが世界の最高傑作だった。
呼吸自体がひとつの世界であるように、
私は呼吸の中で暮らした。
私は呼吸と手を結んで生きのびた。
夕暮れ近く、
平らな地面に私の視線が吸い込まれていく。
輝かしい行為として、
平らな地面が そこにはありました。
平らな地面は 月面を襲撃したりもした。
月面は襲撃されることを楽しんでいた。
くたくたに疲れて、とことん楽しんでいた。
平らな地面は 呼吸の中で暮らしていた。
月面は自分に向上心が欠けていることを自覚していた。
泣けてしまうほど優雅でどうにもならない呼吸の中で、
私の頭の上に 太陽よりも大きな高層ビルが落ちてきた。
たくさんの名前を口ずさんで、私は呼吸を連れ出した。
世界のうなり声を振り切って、
私は素足になっていた。
私は呼吸と手を結んで、私は呼吸の外に立っている。
けだるいほどに軽快な人影が
化粧の濃い女とからみ合ったり、
注目して見れば、
それは見覚えのある弱肉強食の物語だった。
人影が過ぎ去って、あっという間に、
喰われた女の残骸が母になった。
嘘偽りのないあきらめが母の体から
にじみ出てくるのを感じた。
笑えるほどマヌケなやつだと思ったから、
「あんたの姿は笑えるほどマヌケだよ」と
私は母に向かって そう言った。
「お前は悪人だよ」と
マイクを持った母はエコーをかけて言った。
「悪人は目をそらさないし、破滅もしない」
そう言って母は エコーをかけて本気で笑っていた。
じわじわと平和に
クラクションを鳴らして、待つしかない。
でたらめなフォームでも泳げるということを。
失われてしまった環境においても、
新しい苛酷さを、新しい感謝の意を、
生み出したいのです。
きちんと他人を愛することの難しさを分け合いたい。
ためらうこともふくめて、
むしろ、チューリップの花びらが ぽたりと落ちるように、
まったりと激しい平和に向けて、
忍耐と厳密さと狂おしい運動を接近させて、
無い物ねだりばかりがカサブタになる。
何ごとも驚異に満ちて、
ありとあらゆる営みは刻一刻 変わっていくということ。
実際の動物の声が凄まじい振動だった。
自分のつたなさと無能ぶりに がっかりしても、
そこから逃亡できるとは思えない。
今日も、風が肌に当たるのを、初めて世界を発見しているように思った。
こわがりなものが口にする
あまりにも冷たい言い方の神話や目標は
あまりにも家庭的で殺人的だった。
いったい何なの それは?
食べもので遊ばないでほしい。
あっと驚かされる破壊の歴史に もて遊ばれないでほしい。
鈍感なことは つくづく鈍器だったとしても、
その尽きることのない痛みを少しずつ明らかにして、
伸び伸びと、あるいは伸び伸びと、
その尽きることのない労働を愛だと呼んでほしい。
愛することをやめる理由が見つからないから
愛は生きのびることを望んでいるように、
よく働く鉄の義足が山脈を走り抜けて行く。
よく働く鉄の義足が他人の物語とつながって山脈を走り抜けて行く。
どこかで背骨が折れる音がした。
それは人々の歓声と拍手だ。 すべて実在のものだ。
絶滅の可能性よりも、殺人の可能性よりも、
わたしのほうが醜いよと わたしは言った。
「もう二度と俺のことを破壊するな」という声よりも、
わたしの声のほうが醜いよと わたしは言った。
これだけ醜くても労働は可能だし、これだけ醜くても俺は可能だ。
あとかたもなく よく晴れていた。
棒立ちになって、あてになるものなんて何もない。
どうぞ失望してください。
走りまわっていた頃のことなんかを奪い取られて、
なかば むき出しの背骨が売春を生きていた。
売春は鉄の味がした。
なかば むき出しの背骨が望んでいたものは何だっけ?
なかば むき出しの背骨は何を満喫しているのだろう?
牛のよだれは冷凍のため息を満喫していた。
明るい声は土のワイセツさを満喫していた。
後悔がないことだけが生命だった。 劣等感は錯覚だ。
疲れ果てることも身の破滅も錯覚なんだ。
生命は破滅できるほど頭良くはできていない。
生命は床に落ちた牛のよだれだった。
はいつくばって、はいつくばって、すがりついて、
「失望の気分なんかも味わってみたら、ちくわと似ていて旨かった。」
なかば むき出しの明るい声は 心の底から生命を信じている。
意味のない労働を閉め出すのではなく、
命に従っていた。
犯罪に対する願望や、無惨な殺人の物語が
手応えのあるものではないのだと思い知るまで、
僕は死ぬほど殴られていた。
地面に突き倒され、むしり取られて、僕は学んだ。
「気に入らない」ということを学んだ。
「気に入らない植物」「気に入らない妊娠」
「気に入らないクイズ」
「気に入らない自己破壊」「気に入らない再生ボタン」
「気に入らない連帯感」「気に入らない高速道路」
「気に入らない座禅と戦闘機」「気に入らない性癖」「気に入らない筋肉」
「気に入らない敵意」「気に入らない水玉模様」
「気に入らない親切」「気に入らない卑怯者」「気に入らない生存」
「気に入らない観光気分」「気に入らない憧れ」「気に入らない本能」を、
「気に入らない言葉と沈黙」を、「僕は、これを家族と呼んでいる」
たんねんにつくられた
完ぺきな黒色に目がくらんで、
すごく親しい笑顔は やがて死ぬだろう。
死んだら、やがて生まれるだろう。
夜のタクシーは淡々と風みたいに移動して、
大した意味はない。
わたしの、のろまな快楽は本当にのろまです。
時々は完ぺきな黒色に飽きてしまって、
広くゆっくりとよどみ、浴びるようにゴミを歌う。
それはそれで勇気づけられたり、
なにの変哲もない笑顔が脈打った。
なにもない、ただただ笑顔が素敵だなあ。
なにもない、ただただ笑顔も やがて失うだろうけど、
ごく身近なものとして、やがて見つけるだろう。
断念をする必要はなかった。
あえて生きているくらいが命だった。
地球儀とお父ちゃんが
水槽に閉じ込められている。
お父ちゃんの顔面が黙々と日焼けしていく。
「大人はみんな腑抜けだと思ってるでしょう?
それ当たってるよ」 そう言いながら、
お母ちゃんは生暖かい電柱と交尾をしていた。
それは洗練された あえぎ声だった。
わざと哀しい印象を与えるべく設計された
あえぎ声だった。
「抜け目のないあえぎ声だね」 そう言いながら、
お父ちゃんの耳の穴は きらきらと輝く黒色だった。
お母ちゃんの耳の穴は きらきらと輝く黒色だった。
はっきり言おう。
笑顔が足りないことを。
はじめまして。 俺はお前のすぐ隣にいる。
俺はお前の涙の粒が気持ちいい。
お前の涙の粒がゆるやかな傾斜を転がり落ちていく。
お前の心臓は相変わらず黒い果物で、
次の瞬間には黒い廃棄物になった。
黒い廃棄物は臭いよ。 ちくちくと肌に刺さるような匂いだ。
よそ見をしないでくれ。 俺はお前の両手です。
俺の半分は怒りの塊です。
俺はお前に魔法をかけたかった。 お前の心臓を土の香りにしたかったんだ。
俺はお前に叩きのめされて、骨まで疲れていた。
せめてお前は、お前の両親にはお前の花束を送ってやれよ。
どのくらいの厚みの花びらが望みなのか?
お前のよろこびと悲惨さを込めて、
お前の選んだ花束が、凄まじい荒野みたいだった。
お前の花束と、俺は夜を明かした。
お前の選んだ花束は、お前の失敗を物語っている。
この世の何よりも失敗だった。
お前の失敗はどこまで行けると思う? 俺の失敗はどこまでも行ける。
ただただ棒状の冷や汗をかきながら、
「正直言って、正直であることは難しいけどね」とか言って、
ベースは出入りが自由なガレキで、
哀れで分別のあるガレキのパーティーで、
パーティーが終わった後のすさみ方も全部ガレキで、
ガレキがガレキを傷つけたり、
ガレキとガレキが傷をなめ合ったり、
それでもどうしても、ベースは出入りが自由なガレキで、
ガレキとガレキが組み合わさってできた光と影を感動する。
朝の食卓があって、昼の風がざわめいて、
真夜中の古傷は誰のものでもなくて、
わたしは古傷に見とれない。
わたしは手がくたくたになるまで自宅のドアをノックしている。
苦しみを知ったり、ほのぼのとしたり、
やましさのかけらも感じさせないブラジルの上空のピークでは、
危険に満ちた心臓発作が明るくなって、
心臓発作はすこやかに眩しいだけの存在感になっちゃったから、
「なんだよー」って感じになってきて、何だかイライラしてくる。
すこやかに眩しいってだけの心臓発作は何を求めているの?
見たい夢もわからないハキダメの時代でも、わたしはハキダメを歌えるから、
ほだされてる暇があったら、かきむしるような読書を繰り返せばいい。
わたし一人の「考え」を妊娠するまで、
一冊の本をすり切れるまで繰り返して読み続ければいい。
念のために言っておきますが、徹底した読書はスラム街や南の島より広い。
わたし一人の「考え」を出産すること、それを本と呼ぶのだった。
ただいま、おかえりなさい、人間。
たかだか本。たかだか人間。
本と人間は全く同じ意味をもっているので、無駄に血を流す必要はなかった。
血は、本と人間の体の内側に、夕焼けみたいに駆け巡るものだ。
くわしいことはわかりませんが、
自分に嘘をつくことは、
笑い事じゃないくらいの敗北で、
わたしは失敗したのだった。 わたしは敗北しました。
笑い事じゃないくらいの敗北です。
それは引き金であり、唯一の「告白」だった。
「告白は幽霊だ」「幽霊は存在する」
「自分の本質は幽霊だと思った」「幽霊は素朴でした」
「素朴が疾走する」「疾走は気持ちいい」「素朴が勝利だと思った」
「握手」「不確定要素」「共存」「価値観は多様」「価値観はバナナ」など。
「告白」からしか何も起こらない。 「告白」はうすのろで、意地汚く、
全くおろかなので、できるだけ粘り強く、丁寧に道草を食ったりして、
くわしいことはわかりませんが、ゆっくり生活を進めることにする。
真新しい季節や、強烈にくだらない雑談と向かい合って、
「告白」で訴えかけることをやめない。 「告白」をつづけるしかない。
他にどうすることもできないことを知って、ここに立っている。
何回でも「バナナの様な告白」を積み重ねていく。
この極めて小さな、それでもゼロにはならない「バナナの様な告白」です。
「バナナの様な告白」は、「気分爽快なとき」には、「全く爽快な気分」です。
押し入れの中に
イカスミが浮かんでいる。
結果的に父が最も愛したのは
植物人間となって口をきかなくなった母だった
というストーリーは
私を驚かせてくれる。
父と母の間を「何か」が走り抜ける。
父と母の間を走り抜ける「何か」の正体がイカスミであることを
私は知っている。
父と母の間を走り抜けたイカスミが
押し入れの中に帰っていくのを眺めていた。
押し入れの中にイカスミが浮かんでいることを 私は知っている。
おびただしい鼻水が夜遅くまで愚かで、
滴り落ちる記憶喪失はますます記憶喪失になって、
失うものが多すぎる。 たぶん持ちすぎたんだ。
蚊をつかまえてまっすぐに投げる。
とくに急ぐ様子もなく、蚊は警備員の鼻の先端にとまった。
警備員はくつろいでいるように見える。
「正当な殺人がないなら、正当な生活もないだろう」
そして警備員は笑った。
「正当な生活があるなら、正当な殺人もあるだろう」
そして警備員は踊った。
まるで、すがすがしい退屈が優雅な身のこなしで
人殺しをしているみたいに踊っていた。
蚊は警備員の鼻の先端にとまり続けた。 そして警備員は踊り続けた。
警備員にとっての正当な殺人とは、熱心に踊ることだった。
いつでも何かしらの先入観が入っていて、
分析だけではぬぐい切れない。
自分が口先だけの人間だというのを実感したら、
労働の歌が息を吹き返した。
労働の歌は、生きる理由を知らなくても、
とりあえず、自分を生きないことの悲惨さは知っている。
だらしがなくて、臆病でも、
労働の歌は、自分を生きることくらいは受け入れる。
自分を生きることは「普遍的な傷だよ」と労働の歌が歌う。
なんだかんだ謎の、
普遍的な傷なら、おめでとう。
人間の生きざまと
女の背中は街あかりで照らされて、
快適なファッションと全世界が
僕の頭をコンクリートの床に何回も叩きつけていた。
コントロールを失い、方向を失い、よく晴れて、
出会うべくして、僕は失神と出会う。
この失神はサクセス・ストーリーだと思う。
緊張感と同時に
神聖な気持ちにさせてくれる神話的な屋上で
僕は遊んでいた。
神話的な屋上は冷徹だけど何も拒絶しない。
「煙の重さ」と「直角の騒音」が激突してできた「空白」を
ポケットに押し込んだら、僕は何ごとにも楽勝だった。
僕は納得して食べたし、僕は納得して眠った。
見物人がこっぱみじんに紙吹雪を出産して、
見事な青紫の夜が とろりとした液体になった。
その液体に 夜のすべてが凝縮されている。
シーツやベッドもろとも、恋人たちは液体の夜と愛し合った。
液体の夜はひどく静かで、耳の奥がじーんとしびれるようだった。
液体の夜はやがて傾き、女の口に飲み込まれていく。
液体の夜を飲み込む音は 明らかに躍動的だった。
僕はずっと筋肉が焼けて、
失望と出会うと自由になった。
次は煙だ。
僕はむだなあがき。
一点の疑いも持たずに岩肌に付着したぬめり。
僕は君の乳首です。
膨大な白い紙クズが風に運ばれていくみたいに
今度は君が泣け。
忘れていて思い出せなかった記憶を引きずり出すような
クリアな液体の気持ち。
色々な土地、太い竹、ホワイトハウス、密告者と泥とポリス、
高層マンションからの見晴らし、光景、インチキ、
体液にまみれることの爽快さと、そのしらじらしさ。
信じるでもなく、疑うでもなく、受け入れる。
そしてそれを土台にした生活をたっぷりと味わう。
僕は君の乳首です。
僕はドン底まで落ちる君の乳首だから、
どんなものでも壊せるし、どんなものでも創造できる。
初めての釣りだった。
思い浮かべたのは、
羽は生えていないけど
重力から切り離されて
空飛ぶ階段。
恋する気持ちが目玉から
こぼれ落ちて、
ピンポン台の下にもぐり込んで
死んだ。
死体の匂いはしなかった。
なまめかしい真っ昼間をきっかけに
大切な場面で白けたりしながら、
ねえ、知ってる?
人工受精の粘膜から
脱臼って感じの電子音が鳴る。
どんな薄情な人間でも
「痛み」は実践されていた。
はっきりとぬるま湯につかって、
パーティーの席で
間違って妻を射殺しちゃった
ウィリアム・テル太郎って人がいました。
何をどう間違ってそうなったのか?
マヌケな妻のマヌケな頭の上にのせたマヌケなりんごを
マヌケな弾丸で打ちぬくマヌケな約束だったはずが、
マヌケな弾丸はマヌケな妻のマヌケな頭を打ちぬいちゃって、
マヌケなウィリアム・テル太郎は
「HELLO」の「O」を抜いたら「HELL」だねと言いました。
衣服を積み重ねて
やさしさのこもった家を作る。
長い時間を費やして、
ポイズンと車エビに夢中だった。
サンキューソーマッチ。
どうして私は今、
サンキューソーマッチ。と言ったのか
分からない。
私のきずしとジグソーパズルは
被爆したがっている。
身の丈の言葉を獲得しようとして、
私は身の丈も見分不相応も
ただひたすらに打ち明ける日々なんです。
青空は鬼畜であることをあきらめた。
鬼畜と鬼畜が助け合うことだけが
世界なのに。
鬼畜の名前は人間っていうんだよ。
人間にも名前がついていて、
人間の名前は欲望っていうんだ。
よく熟した密林に一体化して、
いつでもロマンス小説のように髪の毛が揺れていた。
できるだけ柔らかくとろとろに煮詰められた重力の中では、
浮かび上がっているのか落下しているのか分からないから、
ばらばらの殺人事件さえ環境音楽になった。
おしっこは立ち尽くし、
人生から言い訳を引いたら、ビニールハウスが残った。
ビニールハウスにはフラミンゴの行列ができていた。
私たちの体内時計を桃色の羽でいっぱいにして、
あなたのカオスを私のサーフィンで 悲しみが完成した。
忘れもしない、
それは明らかに黒ずんで、
寝返りを打つ博物館だった。
本物の運河は密室ですっかり影になって、
その影の上に女性はあぐらをかいて座る。
女性は明け方4:30の冷蔵庫に似ている。
女性は山を眺めている。
山の形が何もかも崩壊して、
お葬式を絶滅させる低音のサウンドになった。
女性のあぐらは みずみずしくて、
私の味覚神経に たどり着く。
こっそり盗み出した女房の
鼻の穴のなかの真夜中で
オオサンショウウオがメロディになって、
メロディが持つ そのくちびるは
書き割り的な街を走る つり下げ型のモノレールだった。
愛と活気に満ちた防災訓練で せきずいを損傷。
速すぎてリズム。
コード進行は 肥大するアラブの闇夜。
女房の鼻の穴のなかの真夜中と 肥大するアラブの闇夜は
打ちとけて、
尺八、クラリネット、リコーダーなどの縦笛が
横笛に化けた。
横笛の吹き口からは 贅沢な沼の気配がした。
雷が難なく破片で、
ゴールドの絵の具は情け容赦なく野外で暮らす。
飛行機の翼には雨粒が積もって、
惑星と両想いの水滴は 飛行機の翼をむしり取った。
もうすぐ、
野性の水滴が人間のドアをノックする。
何の前ブレもなく、不思議に明るい空気になって、
人間がドアを開けると同時に レモンの木の花が開いた。
体に良さそうな和解と
あらゆる水滴に通ずる歌声の行方が明らかになる。
ざわめきと冷えたビールは ぽつりぽつりとマヌケになって、
ミミズやナメクジに一礼して、カニなんか大喜びで、
人間の死体は 火葬か土葬か食い物になって、
乱暴でゴーマンな野良犬を きちんと愛せるように
人間のドアは 太陽を歩いた。
ぜいたくは
ねたまれないといけなくて、
貧しさも夜も愛も人間で、
今日は一度きり、ここで会えた。
ゆきずりのただの温もりは
あらかじめ決定されていた約束で、
“優しさが人間をめちゃくちゃにするんじゃないよ、
人間はめちゃくちゃなものだと確認するために
優しさがあるんだ”
本望が冬眠から目を覚まして、空虚があふれ出した。
人間の中心に空虚が住み着いているなら、
自分以外のものに
自分の空虚を回収されることを拒否します。
空虚は人間を可能にする。
どれほど頼りなく思えても、私は人間をさらけ出してやろう。
お風呂つきの銀行にある
平べったくて実に巧妙なノコギリで、
恋人たちの着ているものを取り去らなければ、
アマゾン川の上流に似させてデザインされたヘアスタイルが
笑うしかないくらい縮んじゃって、
しかも、手の込んだリゾートマンションに似させてデザインされた
右のモミアゲは、右のモミアゲだけでひらひらと舞い降りて、
釣具屋にたどり着くと、釣り具にとけ込んでいた。
小春日和の訪れるころ、
右のモミアゲは、釣り具に間違えられて、
釣りを愛好する人にお買い上げされる密やかな風景。
すべて無駄に流された液体があって、
今を疾走する血液がある、だからこそ、
メイク・ラブと暗殺の区別がつかなかった。
しかるべきところに、
灰色がかった青色の青姦の美しさ。
青姦とは俗語であり、
「青」は青空を指しているが、夜に行っても青姦という。
その際に行なう性行為については
基本的に和姦を指しており、強姦は含まれない。
君にはスラングが一つ足りなかった。
僕にはつつしみが一つ足りなかった。
実は何も伝わっていなかったということ。
帰宅したら、あらゆるものの重圧で、
めだかから、めだかの赤ちゃんが産まれた。
わーい。
精一杯の命を選んで、そのほかの何もかもを失ってしまえ。
みんなたぶん失うことが怖くて、挫折していくんだと思う。
失ってしまうということも、最高の気分だったと思い出した。
実は何もかも伝わっていたのだということ。
みだらなひとときはみだらで、優しいひとときは優しかった。
泥のように愛し合って、塩水のように憎しみ合って、他には何も望まない。
隠れてタップダンスしてるエビフライの名前は
“海岸線の、あるいは家具のうしろすがた”といいます。
生の貨物列車のリズムは、
これはまさに暴力的とさえいえるほど、
ハッピーな歌でした。
ペチャペチャという舌と舌がからみ合う音は、砕け散った。
数えきれないほどのニシンは、うろこを輝かせた。
一切かかわりのないような顔をしていても、私たちは関係がある。
私たちは新たに出会う、
あらゆる顔の上に、あらゆる顔が、あらゆる泥を塗り合っています。
あからさまに手づくりの命を続けるために、
泥を塗り合っています。
畑を耕すように、それは無限に天国ってことだよ。
無限に天国なんだから、それは無限に地獄ってことだよ。
ずたずたに、妙に美しくて、
無限に地獄なんだから、それは無限に天国ってことだよ。
私たちの肉体は、私たちの肉体労働を目指して、
すべて終わったとしても、私たちはニコニコ生きていました。
何も始まっていなかったとしても、私たちはニコニコ生きていた。
生のヴォーカリストの場合は、
とにかくでかい声を出せばいいと教えられました。
あとは強弱でした。
ヴォーカリストのでかい声とゆったりとしたステップは、
無限の雑音を消すためのものでしたが、
雑音が消えずに、隣の家の飼い猫の病気が治る。
いつもなにか、
たいへんよくできていました。
思いつくままに肉感的な新聞紙を読み終えたら、
いちいち冷静なカラスの目玉が、目玉の表面が青空だった。
カラスの目玉は、青空の青色を深めていった。
青色を深めた青空は、ダークブルーのよだれをたらしました。
コメディみたいな、ウィットに富んだダークブルーのよだれ。
外国人から見たら、あなたも外国人だというのと同じで、
ダークブルーのよだれから見たら、あなたもダークブルーのよだれだった。
ダークブルーのよだれを銀紙で包んだら曇り空になった。
青空は青空をやめないでほしかった。
ダークブルーのよだれはダークブルーのよだれをやめないでほしかったし、
曇り空は曇り空をやめないでほしかった。
わたしは青空の記憶を鼻の穴から吸い込んだ。
ダークブルーのよだれの記憶を、曇り空の記憶を鼻の穴から吸い込んだ。
みっともない、じっさい、待ち構えていたかのように、むかつきすぎて、
わたしは卑怯者で、青空のほうがわたしの欲求を引きずり出す感じで、
だんだんわたしは、青空の姿を身につける。
だんだんわたしは、ダークブルーのよだれや曇り空の姿を身につける。
ほとんどでたらめに、肺の奥に安心感を感じて、
わたしは働きアリの姿を身につけたりして、一日のほとんどを散歩についやしたり、
女王アリのひげなんかを撫でて暮らしたりしていた。
どしゃぶりのなか、
チャーミングでずるいパーカッション奏者は、
細部まで、息づかいが、
居心地のいい恋愛小説のようだった。
パーカッション奏者が息を吐くと、
わたしも息を吐いていて、
まわりの植物が、わたしたちの息をそっと吸い込んだ。
パーカッション奏者はたくさんの息づかいを、
細部まで、画用紙に記入して、
寝ても覚めても、その指の関節も首筋も、
息づかいに変えて、パーカッション奏者の息づかいは、
すべてのがっかりを抱きかかえて、隣の部屋へ連れていく。
「たくさんの手紙を書いたよ」「行かないで」「またいつか」
「うん、たぶん」「そして、眠るまえにも手紙を書いた」「何もできない」
「口から出まかせ」「きれいな岩、きれいな雨」「地形、気候、人口、再会」
「再会した人たち」「寂しかった思いが少し終わった」「抱き合う瞬間」
「わたしたちはそんなに話すことがない」
「じれったいような物語を手渡し合って」「実感したよ」
「後戻りできないところに、わたしたちはいて」
「もっと目いっぱい、わたしたちは再会することになる」
「まわりの植物は息を吐き出していて」「わたしたちがその息をそっと吸い込んだ」
働くことをやめたら、
死んだ。
ちぇっ。
そして、ただちに働いた。
精力的に働いた。
静かに宙に浮かんでいるイナズマに
ねじふせられて、
イチョウの木はゆれた。
やがて、
わたしたちは、
ショーウィンドウの
鉄のシャッターの騒音になった。
見返りを考えない騒音だった。
騒音たちは、
実に多彩に破壊されて、
ちりぢりになって、
チリンチリンって鳴り響いた。
チリンチリンって鳴り響いたその音は、
自分が無意味であることの満足を
試みているのだ。
ちゃんと、悔しい思いをして。
無知からくる、
理由のない、はげしい失望です。
失望があるかぎり、わりと、
活字的な冒険と、
人生の冒険が一致しちゃう。
灰色に固まって死ぬような状況で、
普通なら、もう四回ぐらいは死んでるはずの、
救いようのない頭の悪さを、
見逃してしまう。
見逃してしまう、ありのままのうれしさを。
見逃してしまう、ありのままのいらだちを。
見逃してしまう、ありのままのいやらしさを。
見逃してしまう、ありのままのいやしさを。
見逃してしまう。
もう、どうすることもできない頭の悪さでも、
輝くばかりの図々しい太陽が、
仰向けにひっくり返る瞬間を、目にすることもある。
ヨガに失恋した女が、おならをしたら、
風流な松の匂いが、黙々と通り過ぎる。
手のひらに鳥の絵を描いた。
手のひらは女のものだ。
女は意識を失ったまま
何ヶ月もベッドの上で横たわってる。
手短に胸を痛めて、睡眠は大切だと思う。
わたしは進んで眠ります。
ガレキは、
はじめからゴミだったんじゃないか。という声が聞こえた。
ガレキは、元々が、全部ガレキなんだよ。
ガレキは。
元々が、全部ガレキなんだよ。というこの声もガレキなんだよ。
ガレキは。 ガレキはガレキ。
執念っていう名前の生き物だけが、
ガレキをガレキで積み重ねて、
このガレキはガレキじゃないんだよ。と告白したんだ。
親密になったり、けいべつしたり、
ざわめきと体温が入れ替わる。
体温と体温を積み重ねて、
この体温はガレキじゃないんだ。と わたしは告白したんだ。
野原は冷たくて、
民族音楽が熱狂のあまり虹になった。
虹は生暖かく、シャンプーの香りであふれていた。
打つべき手はもう何もないというくらいにあふれていた。
虹は着ているものを全て脱いで、銀色に変化していった。
銀色の虹は“洞窟の軽さ”と恋に落ちました。
恋はどちらかというと取るに足らなくて、
そもそも、恋が存在するかどうかさえどうでもいいことだと知って、
ありえないほど恋に落ちた。
“洞窟の軽さ”は着ているものを全て脱いで、“沼の重さ”に変化していった。
“沼の重さ”の表面にはゴム製のサンダルが浮かんでいた。
“沼の重さ”の表面を通り抜けて、“銀色の虹”がずぼずぼと沈んでいく。
世界が丸ごと飲み込まれていくみたいだった。
わたしたちはそれを憎んだ。 でも、わたしたちの体液はそれを憎まない。
彼女の喜劇から、悲劇が追放されたとき、
寝室の息のにおいには、えさを与えないでください。
彼女は、傘立ての中で、
うつらうつらしながら、恐竜の足音が遠ざかっていくのを聞いた。
計り知れない眠気は消えて、靴ひもを結ぶように、つじつまが合った。
へんな気持ち。
傘立ての中の、日傘と、分かち合うように、
たかまってから、少しずつ、傘立ての中から抜け出して、
ときどき口笛を吹いて、彼女は、植物園の生命を見に行った。
そして、鉄工所でも生命は働いていた。
感動的な生命を、奪い返した彼女は、そのほかの、何もかもを失った。
失うことは最悪ってわけではない。 ただ感動的だっていうだけ。
彼女は、笑わなくてはならないものを笑うと、
彼女の、思いやりが、何も着ないで走り回る。