できもしないことを できるようにはみせない人だった。 誰も気づかない隙間に発芽した人だ。 その人は礼儀正しく安っぽい悲鳴を 上げたりもした。 その人はヘラジカの腹を切り開き 臓器を引きずり出す夢を見た。 引きずり出した臓器をふくらませて 空へ飛ばしたりもした。 遊びに出かける子どもを見送るように その人は空へ飛んで行く臓器を見つめていた。 空を飛んでいく臓器は赤かった。 それは果てしないような赤さ。