呼吸を味わう
くたくたに疲れて、決定的に、
呼吸の音だけが世界の最高傑作だった。
呼吸自体がひとつの世界であるように、
私は呼吸の中で暮らした。
私は呼吸と手を結んで生きのびた。
夕暮れ近く、
平らな地面に私の視線が吸い込まれていく。
輝かしい行為として、
平らな地面が そこにはありました。
平らな地面は 月面を襲撃したりもした。
月面は襲撃されることを楽しんでいた。
くたくたに疲れて、とことん楽しんでいた。
平らな地面は 呼吸の中で暮らしていた。
月面は自分に向上心が欠けていることを自覚していた。
泣けてしまうほど優雅でどうにもならない呼吸の中で、
私の頭の上に 太陽よりも大きな高層ビルが落ちてきた。
たくさんの名前を口ずさんで、私は呼吸を連れ出した。
世界のうなり声を振り切って、
私は素足になっていた。
私は呼吸と手を結んで、私は呼吸の外に立っている。