John、拝啓John
雨や、風や、水着や、生き物、
ミディアムテンポ、何をしてもよい場所、
呪文、老後のやりくり、イリュージョン、
うめき声たちが破片となって砂浜になり、
手をつないで夕日を眺めながら、恋人たちは夢を見るんだ。
短い髪の女性は、大事そうに卵をかかえて眠っている。
「人を見たら敵だと思いなさい」
短い髪の女性の寝言は、呆れるほどの生命力を感じさせる。
僕たちは、いつでも実戦だったんだ。
これは、心置きなく馬鹿馬鹿しい戦場です。
だから、恋人たちは手をつないで夢を見るんだ。
夕日に照らされたような夢を見るしかなかった。
夢を見ないものは、目もくらむほど勇敢な魂だと思う。
どこからどこまでが魂で、
どこからどこまでがゴミ箱なのかさえも分からない勇敢さだ。
勇敢なものは恐怖を見た。しみじみとした調子で、恐怖を見た。
恐怖の先にある優しさを見た。優しさの先にある執念を見た。
勇敢なものは執念を見た。しみじみとした調子で、執念を見た。
執念の先にある白々しさを見た。
目が回った。いじらしさを見た。ただひたすら美しさを見た。お腹が空いた。
お腹が空いた先に昼ご飯を見た。昼ご飯の先にある泥沼を見た。
泥沼の先にあるゴミ箱を見た。ゴミ箱の中から勇敢な魂を拾った。
勇敢な魂の先にいる犬のJohnを見に行こう。Johnの濡れた鼻先に蝶々が二羽、止まった。